火傷事故は、飲食業の調理場や製造業の工場等で発生する可能性があります。
火傷事故では、治療を行っても完治せず、外貌醜状や視力の低下等の様々な後遺障害が発生する危険があります。
後遺障害が認定されるかどうかによって、認められる損害額に大きな差が出るため、どのような後遺障害が認定される可能性があるかは、専門家に相談した方が良いでしょう。
では、火傷事故に遭った場合、誰に対して責任を追及することができるでしょうか。
まず、会社に対して安全配慮義務違反が追及できる可能性があります。
また、他の従業員が原因で火傷をした場合には、原因となった従業員に対する損害賠償請求に加え、会社に対して使用者責任を追及できる可能性もあります。
このような責任を追及するにあたっては、会社の安全配慮義務の内容や、事故態様(どのように事故に至ったのか)等に関し、有利な証拠をきちんと収集して立証する必要があります。
以下では、火傷事故における安全配慮義務違反に関し、参考となる裁判例を紹介します。
Aが、B社において、溶解工として、鉄スクラップの溶解業務に従事していたところ、鉄溶解液を溶解炉から取鍋に出湯作業中、溶解炉又は取鍋中の溶解液の飛沫が飛来してAの左眼に入り、左眼角膜火傷及び深層角膜異物の傷害を受けたことから、B社に対して、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をした事案。
本件事故につきB社に責任があるか否かにつき判断すべきところ、前認定の如く、鉄溶解液の飛沫発生は不可避な現象であり、事故を防止するには防災面又は保護めがねの着用が唯一の方法であることに照らせば、使用者は労働契約の附随義務として、労働者の安全を確保するため、同作業に従事する労働者に対し、右作業の危険性を説明し、防護具を支給し、これを着用するよう教育する義務があったと解するのが相当である。
B社は、Aに対し入社時の基礎的安全教育を行ない、保護具の支給もしていると認められるが、仕事の慣れや保護具自体の不便さ等から、保護具の使用を怠っている労働者に対し、改めて危険性を説明し、保護具を確実に着用するよう指導するなどの経験者に対する再度の安全教育を確実に行ったことまでは認め難いというべきである。
以上によると、B社のAに対する安全確保義務の履行は不完全であつたというべきである。被控訴人の、安全確保義務としては注意喚起程度をもって足る旨の主張はとうてい採用することができない。
Aは本件作業の危険性を一応理解しておりながら、しかもB社から保護めがねの支給を受けながら、レンズが曇るという理由でこれを使用しなかったのは過失というべく、本件損害額の算定に当って右被害者の過失を斟酌するのが相当であり、右事情に前認定にかかる被控訴人の義務不履行の態様を対比して判断すると、控訴人の過失は3割と認めるを相当とする。
本件では、事故を防止するには防災面又は保護めがねの着用が唯一の方法であることから、労働者に作業の危険性を説明し、防護具を支給し、これを着用するよう教育する義務があったのに、この義務を怠ったことから、安全配慮義務違反が認められました。
安全配慮義務違反の認定の際には、どのような原因により、事故が発生したのかを特定することが重要になります。
他方で、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をする側が、保護めがねの支給を受けながら、レンズが曇るという理由でこれを使用しなかったことから、3割の過失割合が認められました。
安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をする側に、不注意があった場合には、大きな過失割合が認められる場合も多いため、注意が必要です。
Aが、最中皮の半自動最中皮焼成機を使用して最中皮の焼成作業に従事していた際、同機の熱せられた金型に左手の親指を挟まれ、同指に火傷を負うなどしたことから、安全配慮義務違反を理由に、B社と同社の唯一の取締役であるCに対して、損害賠償請求をした事案。
B社には、機械等、熱その他のエネルギーによる危険及び労働者の作業行動から生じる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない義務及び労働者に対し、雇入時や作業内容変更時に適切に安全教育を行う義務があるところ、Aの従事した労務は、金型が約150℃の高温に達して火傷の危険性の高い最中皮焼成作業であり、半自動最中皮焼成機には、誤って人体が挾まれないような、あるいは、誤って人体が挾まれてしまったら直ちに解放できるような安全装置がないのに、B社は、本件事故当日、それまで最中皮の焼成作業に従事したのが10回程度のAに対し、金型に手指が挾まれた場合の解放方法の教育を十分にしないまま、事故防止のための監督や事故発生の場合に直ちに支援できる者のいない状況で前記労務をさせ、もって、Aに対する安全教育や、作業方法・状況等を注視して作業状況に問題がないか適切に監督する等の配慮を怠ったと認められる。
したがって、B社は、Aに対する安全配慮義務違反による不法行為責任を免れない。
Cは、B社において、前記認定のAに対する安全配慮の状況について、当然に知る立場にありながら、これを是正しなかったと認められ、有限会社の役員としてその職務を行うにつき、少なくとも重過失があったという外なく、本件事故によってAに生じた損害につき、B社に連帯して、不法行為責任を負うことを免れない。
Aは、かねてB社から金型が閉じ始めたらすぐに手を引くようにと指導を受けていたにもかかわらず、金型が閉まり始めたことを感知しながら、まだ手を挟まれることはないと見込んで作業を続行した結果、逃げ遅れて本件事故を惹起しており、また、当日午前から前記作業に従事し、午後には作業時間に余裕がなく、本件事故までに手を挟まれる危険を繰り返し感じていたにもかかわらず、挾まれても容易に外せるだろうと軽信して、B社に報告して善処を求めようとすることなく作業を継続した事情を考慮すると、その落ち度も軽視できず、損害の公平な負担の見地から、50%の過失相殺をすることが相当である。
機械等、熱その他のエネルギーによる危険及び労働者の作業行動から生じる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない義務及び労働者に対し、雇入時や作業内容変更時に適切に安全教育を行う義務があるにもかかわらず、この義務を怠ったことから、安全配慮義務違反が認められました。
安全配慮義務違反の認定の際には、どのような原因により、事故が発生したのかを特定することが重要になります。
他方で、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をする側が、金型が閉じ始めたらすぐに手を引くようにと指導を受けていたにもかかわらず、金型が閉まり始めたことを感知しながら、まだ手を挟まれることはないと見込んで作業を続行したこと等から、50%の過失割合が認められました。
損害賠償額は、大きく変わる場合もあるため、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をする側に、過失があるかどうかも検討することが必要となります。
火傷事故による労災事案では、醜状障害等の後遺障害が発生することがあります。
安全配慮義務違反に関しては、どのような主張及び立証をするべきか難しい検討を要する場合も多いため、火傷事故による労災事案が発生した場合には、専門家に相談した方が良いと思います。