熱中症の場合

更新日:令和8年04月27日

1.職場における熱中症

熱中症とは、高温多湿な環境下において、体内の水分と塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻するなどして、発症する障害の総称です。めまいや立ちくらみ、吐き気やだるさなどの症状に始まり、重症化すると意識障害やけいれん、手足の運動障害等が発現します。

厚生労働省が公表している、令和7年の速報値では、職場における熱中症による休業4日以上の死傷者数は1681人、うち死亡者数は15人となっています。死傷者数は統計を取り始めた2005年以降最多であり、令和6年の死傷者数1195人と比べても大幅に増加しています。

今後、地球温暖化で夏はより高温多湿になることが予想されています。職場で熱中症を発生させない取り組みがより必要になっていくと言えます。

2.熱中症と労災

業務を原因として熱中症を発症した場合、労災給付の対象として認められるための行政上の認定基準として、以下が示されています。

⑴ 一般的認定要件(業務が原因で熱中症を発症したと言えること)

  1. 業務上の突発的またはその発生状態等を時間的、場所的に明確にし得る原因が存在すること
  2. 当該原因の性質、強度、これが身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔等から災害と疾病との間に因果関係が認められること
  3. 業務に起因しない他の原因により発病(または増悪)したものではないこと

⑵ 医学的診断要件(熱中症を発症したと認められること)

  1. 作業条件および温湿度条件等の把握
  2. 一般症状の視診(痙攣、意識障害等)および体温の測定
  3. 作業中に発生した頭蓋内出血、脳貧血、てんかん等による意識障害等との鑑別診断
    :つまり、他の疾病ではなく熱中症を発症していると診断できることです。

また、屋外労働者の熱中症が業務上疾病としての補償対象になるかどうかについては、「作業環境、労働時間、作業内容、本人の身体の状況および被服の状況、その他作業場の温湿度等の総合的判断によって決定すべきものである」との通達が発出されています(昭和26年11月17日基災収3196号)

なお、熱中症を発症し得る環境か否かの判断には、WBGT値(暑さ指数)がよく用いられます。WBGT値とは、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数のことであり、気温、湿度、日射などを考慮して算出される指標です。作業前の一定期間に高温環境に継続してさらされ、身体が暑さに慣れているか(順化しているか)、作業内容、着用している衣服によって、熱中症のリスク評価の基準となるWBGT値の目安は異なります。

例えば、同じ作業に従事する場合でも、熱に順化している人の目安とするWBGT値は30℃、順化していない人の目安とするWBGT値は29℃といった差が設けられることがあります。

3.会社に対する損害賠償請求

業務中に熱中症を発症した場合は、会社に対して損害賠償請求できる可能性があります。

その際には、会社に安全配慮義務違反があったといえるか否かが問題となります。

安全配慮義務の内容を検討する際に、参考になる規則等を紹介します。

⑴改正労働安全衛生規則

令和7年6月1日から施行されている改正労働安全衛生規則においては、以下のことを事業者に義務付けています(参照:富山労働局サイトページ)。

1 熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、

  • ①「熱中症の自覚症状がある作業者」
  • ②「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」

がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること

2 熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、

  • ①作業からの離脱
  • ②身体の冷却
  • ③必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせること
  • ④事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等

など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること

熱中症を生ずるおそれのある作業とは、WBGT28℃又は気温31℃以上の作業場において行われる作業で、連続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるものを指します。

改正が最近であるため、まだ裁判例の蓄積がありませんが、事業者が上記の義務に違反した場合、安全配慮義務違反が認められる可能性があります。

⑵厚生労働省の通達・マニュアル

具体的な安全配慮義務違反の内容としては、厚生労働省が発する通達やマニュアルが参考になります。平成30年に改訂された「職場における熱中症予防対策マニュアル」においては、熱中症の予防と対策の具体的な方法が提示されています。

例:

  • WBGT値の低減のために、高温多湿の作業場所においては、発熱体と労働者との間に熱を遮ることのできる遮へい物等を設ける
  • 高温多湿作業場所の近隣に冷房を備えた休憩場所や日陰等の涼しい休憩場所を設ける
  • 労働者の定期的な水分及び塩分の摂取の徹底を図る

4.裁判例の紹介

福岡高判令和7年2月18日

⑴事案の紹介

労働者Aが、会社の業務としてサウジアラビアに出張し、浚渫船のバケット補修工事に従事していたところ、熱中症を発症し、数日後に死亡した事案です。この事案においては、①Aの死因が業務中における熱中症の発症に起因するものかどうか、②会社には熱中症発症の予防に係る安全配慮義務違反があるかどうかが争われました。

⑵裁判所の判断

①Aの死因が業務中における熱中症の発症に起因するものかどうか

裁判所は、

  • Aが作業に従事した期間のWBGT値は、少なくとも31℃、最大で35℃近くにまで達していた可能性があり、熱中症を発症するリスクが十分に認められる作業環境であったこと
  • Aは嘔吐、脱水症状、意識障害、けいれん等、症状が増悪しているところ、これらは熱中症によって発生し得る症状の一つであり、複数の医師が、Aが熱中症を発症したとする意見を述べ、Aの死亡が熱中症に起因するものであることを否定していないこと
  • Aは、死亡当時若年であり、死亡に寄与するような既往症等も認められないこと

を認定し、Aの死因の一つとして少なくとも業務中に発症した熱中症があるとしても矛盾するものではなく、Aの死亡との間には相当因果関係があると認定しました。

②熱中症発症の予防に係る安全配慮義務違反があるかどうか

裁判所は、

  • 現場の責任者が、工事の作業開始時あるいは作業中にWBGT値の測定をせず、的確に暑熱ストレスの評価、熱中症発症のリスク評価を行っていないこと
  • 会社において飲料水や保冷材等を準備していたとされるも、それらの摂取や備品を装着して作業するかは作業員各自の判断、自由に任されており、暑熱ストレス及び熱中症発症リスクの客観的な評価を踏まえるなどして、定期的に個々の作業員による装着状況の確認や装着の指導等を行っていたとは認められないこと
  • サウジアラビアは夏季には日中の気温が50℃を超えることもあるが、会社から従業員に対して、サウジアラビアの気候条件の特徴、熱中症の特徴等及び熱中症予防の在り方に関する知識の共有をした形跡がないこと
  • 熱への順化が十分ではないAに対して、フルタイムで屋外作業に従事させたこと
  • 現場の責任者が、Aの健康状態の管理の一環として、熱中症の発症に影響を及ぼすおそれがある睡眠状況や食事の摂取状況等について的確に把握し、これらに関する指導をするなどしたことは認められないこと(Aは、食欲がなく夕食と翌日の昼食を抜いた状態で屋外の作業に従事していました)

を認定し、会社に熱中症発症の予防に係る安全配慮義務違反があると判断しました。

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