製造業の労災事故

製造業では、機械設備を使用する作業が多く、他の業種に比べて、挟まれ・巻き込まれ事故や転倒・転落事故などの労働災害が発生しやすい業種です。 そのため、会社側が業務上必要な安全対策を怠っていた結果、労働災害に直結してしまうこともしばしばあります。

労働災害に遭い、会社側の安全配慮義務違反があれば、会社に対して、損害賠償請求をすることで、労災保険では補償されない損害に関して、賠償を受けられる場合があります。
労働災害に遭った場合に、適正な賠償を受けるためには、泣き寝入りすることなく、ご自身で動くことが重要です。

名古屋総合法律事務所では労働災害に強い弁護士が迅速に対応!
初回相談は無料ですので、安心してご相談ください。
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1. 製造業における労働災害の実態

最新の労働災害統計(厚生労働省発表のデータを引用)

厚生労働省が公表した最新の労働災害統計(令和5年)によると、製造業の死傷者数は約27,000人と、建設業に匹敵する水準です。 主な事故の型別では、 挟まれ・巻き込まれ事故 動作の反動・無理な動作による事故 転倒・転落事故 が多く報告されています。 特に、ベルトコンベヤー、プレス機、切削機などの機械設備を使用する作業での事故が多く、製造業では機械設備に由来するリスクが高いことが特徴です。

詳しくは厚生労働省ホームページをご覧ください。

製造業で労働災害が多い理由

製造業が、他業種と比較して、労働災害が多い理由として、以下のようなものが挙げられます。

1.大型・高速機械を使う作業が多い(挟まれ・巻き込まれ、切創事故のリスク)

製造業では、機械設備の使用が必要不可欠である場合が多く、ベルトコンベヤー、旋盤、プレス機などの回転部分に衣服や手が巻き込まれたり、油圧プレス、裁断機などの動作部分に手や指を挟まれたりする可能性があります。

2.有害な化学物質を使用する作業や高温を伴う作業が多い

製造業では、有害な化学物質を使用する作業や高温・高圧を伴う作業が多くあります。 例えば、有害な化学製品を使用することによって発生する有毒ガスや粉塵による中毒症状、高温を伴う作業中のやけどなどが発生する可能性があります。

3.工場設備の老朽化・設備不良

設備投資の余裕がなく、機械の老朽化によって、安全機能が働かなかったり、点検が不十分な機械を使用し続けることで劣化した部品の飛来や落下による事故、配線の破損による感電事故や爆発・火災事故などが発生する可能性があります。

4.定型作業が多く、「慣れ」による油断が生じやすい

製造ラインでは、同じ動作を繰り返す単純作業が多くあります。慣れによる安全確認不足から事故が発生したり、工程を短縮するために安全装置を無効化するなど危険な省略行為が行われ、事故につながったりしています。

5.外国人労働者や派遣労働者が多く、作業マニュアルや教育が行き届かない場合がある

外国人労働者や派遣労働者が多く、作業マニュアルや教育が行き届かない場合がある製造業では、派遣社員や外国人技能実習生が多く雇用されます。日本語が十分に通じなかったり、短期雇用のため教育に時間が取れず、十分に作業工程を理解しないまま作業してしまうことで、事故にあってしまうことがあります。

事故の発生要因(挟まれ・巻き込まれ、感電、爆発・火災など)

製造業の労働災害では、以下のような要因で発生することが多いです。

  • 機械の可動部に手を入れてしまう挟まれ事故
  • 高速回転部の巻き込み事故
  • 電気設備の不適切な取り扱いによる感電事故
  • 化学物質の誤使用や管理不備による爆発・火災事故
  • 工場内の転倒・転落事故

2. 代表的な製造業の労働災害と事例

企業の安全配慮義務違反が争点となった事例

製菓工場でのパイローラー機(製菓生地延伸機)の清掃中の事故 東京地方裁判所平成21年3月9日判決(平成19年(ワ)第23659号 損害賠償請求事件)

概要
外国人労働者Xが、会社Yの製菓工場でパイローラー機(製菓生地延伸機。「本件パイローラー」という。)の清掃中に、左手を同機に挟まれて左母指挫創,左示指開放骨折の傷害を負った事故について、会社Yは同機の危険性や清掃方法を教示しており、特に、ローラー部分については機械を静止状態にして作業をするように教示していたと主張しました。

判決
裁判所は、本件パイローラーは、動力を用いてベルトを回転させ、ローラー部分によりパイ生地を圧延することを主たる機能とするものであり、その操作如何によっては,回転移動するベルトに作業者が手を挟み込むといった事故が起きることが予想される機械であったこと、本件パイローラーの取扱説明書ないしマニュアル等をXは所持していなかったこと、操作方法や注意事項について、本件パイローラー付近に掲示して周知させるといった措置はしていなかったこと、パイローラーの清掃方法についても,必ずしも日本語を十分に解しないXに対し、口頭での説明に止まっていたこと、本件事故の2日前に、A工場長自身が,本件パイローラーの電源スイッチを「オン」にしたまま、ベルト部分の清掃を行っており,本件事故も、これを見ていたXが同様の方法をとったことに起因すると認められることなどからすれば,YはXに対し、本件パイローラーの操作及び清掃方法に関し,Xを危険から保護すべき義務を怠ったものと言わざるを得ないとして、安全配慮義務違反を認定しました。
■ ただし、Xにも過失があるとして、過失割合は、Xが50%、Yが50%となりました。

企業と労働者の過失割合が争点となった事例

ボイラー清掃作業中の事故 神戸地方裁判所昭和47年4月27日判決判時677号90頁(昭和43年(ワ)第1381号 損害賠償請求事件 昭和47年4月27日)

概要
被告会社のボイラー清掃を請け負っていた作業員4名が、清掃作業中に窒素ガス中毒で死亡した事故について、被告会社は被害者の操作ミスによって窒素をボイラー内に流入させてしまったということで、過失相殺を主張しました。

判決
裁判所は、ボイラーの前面に窒素供給用の配管が設置されてあったのであるから、これを他と識別するための表示、危険を表すための表示、その取扱いに関する注意書等の掲示等をし、又は、誰でも簡単に使用することができない状態にしておく等の措置をなすべきであったのにこれをなさずに放置しておいた、ボイラーの前面に、空気供給用の配管のほかに窒素供給用の配管があり、空気供給用の配管は適宜使用することを許していたのであるから、単に清掃すべきボイラーと期間を特定して請負わせるのみでなく、ボイラーの清掃をなす者に対して、これらの配管の種別、危険性、取扱いの方法等について教育をし、または注意をなすべきであったのにこれをしなかった、ボイラー内部における作業には、酸素の欠乏する場合のあることは常に予想されるので、その内部に立入るに先立って酸素濃度を測定し、又は有害でない空気を送る等して酸素の欠乏していないことを確認し、又は確認させたうえで立入らせるべきであったのにこれをしなかった、等の過失があったものというべく、単に一般的な安全内規を制定したり、安全教育をしたというのみでは、注意義務をつくしたものということはできないとして、安全配慮義務違反を認定しました。
また、被告会社が主張していた過失相殺については、窒素供給用の配管のあることについては何ら知らされていなかったために、知らずに、これにゴムホースを接続し使用したことをもって、作業員側には。作業員側に過失はないと判断されました。

3. 労働災害が発生した際の対応と労災申請

労災が発生した場合の企業・労働者の対応フロー

項目 企業の対応 労働者の対応
事故発生直後 負傷者の救護・二次災害の防止 救急対応・応急処置・会社へ報告
労基署への報告 死傷病報告の提出 必要なら労基署に相談
労災保険の手続き 労災申請のサポート 労災申請(会社が協力しない場合は直接申請)
再発防止策 事故調査・安全対策の強化 安全管理の問題を会社に報告
被災者対応 被災者・遺族への説明と補償対応 会社の対応が不適切なら外部機関へ相談

労災保険の適用範囲(治療費・休業補償・障害補償)

労災保険の適用範囲は以下のとおりです。

項目 内容
適用される労働者 正社員、契約社員、日雇労働者、外国人技能実習生、派遣社員など
適用される事故 業務中の事故(転落・挟まれ・中毒など)、通勤中の事故など
適用外のケース 事業主(特別加入なし)、独立請負業者(特別加入なし)、私的行動中の事故
支給される給付 療養補償、休業補償、傷病補償、障害補償、遺族補償、葬祭料、介護補償など

労災保険では、休業補償や治療費などの補償のみが行われるため、慰謝料などについては補償されません。会社側の安全対策などが不足していたために発生した事故ということが証明できれば、会社側に損害賠償請求できる可能性があります。

4. 労働災害について弁護士に相談するメリット

  • 企業の安全配慮義務違反の追求
    • 企業は、労働者に対して安全配慮義務(労働契約法第5条)を負っています。
    • 企業による適切な安全対策が講じられていなかった場合(足場の設置不備、転落防止策無し等)や、労働者の教育・指導が不足していた場合(危険作業での事前説明無し等)などには、発生してしまった労働災害に対して、企業の責任を追及することができます。
    • 弁護士が関与することで、より適正な賠償を求めることが可能です。
  • 過失割合に争いがある場合も徹底対応
    • 労働災害において、企業側の過失と労働者側の過失の割合が争点となることが多いです。
    • 労働災害に強い弁護士に依頼することで、徹底的に証拠を収集し、過失相殺をできるだけ有利に進めることが可能です。
  • 後遺障害認定もサポート
    • 労災事故で障害が残ってしまった場合、後遺障害認定の等級に応じて、賠償金額は大きく異なります。後遺障害に詳しい弁護士に依頼することで、適正な等級認定、適正な賠償額を受けることが可能です。
  • 裁判に対応
    • 示談交渉が難航する場合も、弁護士に依頼すれば、裁判手続をスムーズに進めることが可能です。
  • 精神的負担の軽減
    • 怪我を負われた中で、やり取りをご自身で行うのは、肉体的負担だけではなく、精神的負担も非常に大きくなります。
    • 弁護士に依頼することで、精神的な負担を抑え、治療に専念することが可能です。

5. 後悔しないために「早めに」ご相談ください。

製造業では機械の利用が多く、労災事故に遭ってしまう場合があります。

もし労災事故に遭ってしまい、会社側の対応に不安を感じた場合は、迷わず労働災害に強い弁護士にご相談ください。

被害者の方が適正な補償を受けられるよう、全力を尽くします。