1 請求できる損害

労災事故で被災者が死亡した場合、葬儀費用や死亡逸失利益、慰謝料などを請求できることがあります。
死亡事故の場合、被災者は死亡しており、被災者が賠償金などを受け取ることができないため、被災者の遺族が賠償金などを請求することになります。
慰謝料の算定は、最終的に、裁判所の判断によることになりますが、交通事故のケースで用いられている基準が参考になります。
なお、死亡事故の場合、被災者の遺族(近親者)固有の慰謝料請求が認められる場合があります。

交通事故で用いられる算定基準

具体例 金額
被災者が一家の支柱である場合 主として、被災者の収入によって、生計が維持されている場合 2800万円
被災者が母親、配偶者の場合 被災者が子育てを行っていたり、家事全般を行っていたりする場合 2500万円
それ以外の者である場合 高齢者、独身の男女、子ども、幼児の場合等 2000万円~2500万円
 

2 裁判例のご紹介

 

(1)被災者が一家の支柱である場合

東京地八王子支判平成15年12月10日

事案の概要 クリーニング工場で機械を操作中、従業員A(知的障害等級2級程度)が、機械に巻き込まれて死亡した事案。
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判決要旨 裁判所は、会社の安全配慮義務違反を認めた上で、Aが、知的障害者の自立を目指す会を立ち上げるなど社会的な活動を行い、意欲的に生活していたこと、交際している女性との結婚を念頭にまじめに勤務していたこと、本件事故態様やAの受傷状況、Aが一家の支柱であったことを考慮して、慰謝料として2600万円が相当であると判示しました。
なお、裁判所は、Aが知的障害を有していたとしても、長年業務に従事し、機械の取扱いや対処方法を十分熟知していたとして、Aが不用意に機械を操作した点などをとらえて、2割の過失相殺を行いました。
 

(2)被災者がそれ以外の者である場合

東京地判平成20年2月13日(判時2004号110頁)

事案の概要 派遣労働者(被災労働者・A)が、派遣先の工場で、ライン上を流れる缶の蓋を検査する作業中、同作業台から転落して頭部を強打して死亡した事案。
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判決要旨 裁判所は、会社の安全配慮義務違反を認めた上で、Aの年齢(22歳)や本件事故態様などの事情に加え、本件事故後の事情(会社の誤った説明や不適切な対応等)も加味し、Aに対する慰謝料として2000万円、Aの遺族固有の慰謝料として250万円が相当であると判示しました。
なお、裁判所は、その他の損害として、死亡逸失利益、入院雑費、入院宿泊費、葬儀費用を認定しましたが、Aがヘルメットを着用していなかった点などをとらえ、2割の過失相殺を行いました。

大阪地判平成16年3月22日

事案の概要 廃油の収集、処理等を業とする会社の従業員であったAが、本社工場にある廃溶剤タンクの清掃作業中、タンク内部において、有機溶剤中毒により死亡した事案。
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判決要旨 裁判所は、会社の安全配慮義務違反を認めた上で、Aの年齢(29歳)や家族関係のほか、本件に関し、すでに傷害保険金が700万円支払われていることなどを考慮し、Aの死亡に対する慰謝料として、2300万円が相当であると判示しました。
なお、裁判所は、「労働者の就業中の安全について、その責任を一方的に使用者に負わせることは相当ではなく、労働者自身にも、自らの作業を管理し、安全を確保すべき注意義務がある」として、Aが保護具を装着していなかった点などをとらえ、3割の過失相殺を行いました。