弁護士 渡邊 佳帆
労災保険の給付を受けるためには、労働者災害補償保険法上の「労働者」であることが必要です。
この「労働者」は、労働基準法上の「労働者」と一致すると考えられており、使用者と労働契約を締結している人のみを指すのではなく、使用者との使用従属関係の下に労務を提供し、その対価として使用者から賃金の支払を受ける人のことを指します(労働基準法9条、東京高判平成14年7月11日参照)。
そのため、たとえフリーランスであっても、「労働者」にあたり、労災保険の給付を受けることができる場合があります。
判断要素には、主に①仕事の依頼への諾否の事由、②業務遂行上の指揮監督、③時間的・場所的拘束性、④代替性(自らの判断で本人に代わって他の者が労務提供をすることや、補助者を使うことが認められていること)、⑤報酬の算定・支払方法が挙げられます(1985年の労働省労働基準法研究会報告による提唱)。
最判平成8年11月28日
この判決では、特定の会社の製品の運送業務に専属的に従事していた自己の所有するトラックの持込み運転手が、労働基準法・労働者災害補償保険法上の「労働者」に当たらないと判断されました。
運転手は、業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたこと、使用者は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、運転手の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえないこと、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであったこと、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、運転手が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はないことが根拠とされています。
東京高判平成14年7月11日
この判決では、カメラマンが映画撮影に従事していた件で、カメラマンが労働基準法・労働者災害補償保険法上の「労働者」にあたるとされました。
映画製作は監督の指揮監督の下に行われるものであり、撮影技師は監督の指示に従う義務があること、報酬も労務提供期間を基準にして算定して支払われていること、カメラマンの個々の仕事についての諾否の自由が制約されていること、時間的・場所的拘束性が高いこと、労務提供の代替性がないこと、撮影機材はほとんどが使用者のものであること、使用者がカメラマンの本件報酬を労災保険料の算定基礎としていること等が総合考慮されました。
労働者災害補償保険法上の「労働者」にあたらないフリーランスであっても、労災保険に任意で加入できる「特別加入」という制度があります。もともと一部の業種・職種に対象が限られていましたが、令和6年11月から、企業等から業務委託を受けているフリーランスの方について業種・職種を問わず特別加入することができるようになりました。