弁護士 劉可心
休業補償給付とは、業務が原因となって怪我や病気を生じ、働くことができなくなった場合に、労災保険から支払われる給付のことです。
この給付は、休業の4日目から支給され、その金額は給付基礎日額の60%です(なお、給付までの3日間の待機期間の補償については、事業者がその補償義務が課せられています)。
支給のための要件は、
①業務上又は通勤上の事由による負傷又は疾病の療養であること、
②労働することができないこと、
③賃金が支払われていないことです。
災害が発生した日以前3か月間に、支払われた賃金総額を、その期間の暦日数で割った額。 例えば、毎月25万ずつの給与で、その期間の総日数は91日(4月~6月等)であれば、
250,000×3 ÷ 91 = 8,242円
が給付基礎日額となります。 実際に労災から支給されるのは、8,242円×0.6=4,945円/日です。
休業特別支給金は、上記の休業補償の給付の際に上乗せされる給付で、給付基礎日額の20%となります。
すなわち、実質、休業補償では、給付基礎日額の80%が支給されることになります。
他方で、休業特別支給金は、労働者の生活保障というよりも、社会復帰を促すための福祉的な性格が強いものです。
この違いは、損害賠償請求において重要な意味を持ちます。
労災事故で、会社に対して損害賠償請求をする場合、休業損害を請求する一方で、休業補償を受けていた場合、二重取りをすることは認められないので、損益相殺をすることになります。
つまり、損害賠償のうち、受けていた休業補償給付分の金額は、差し引くことになります。
しかし、この休業特別支給金は上記のとおり、単なる休業補償とは法的性質を異にするものでありますから、損益相殺の対象にならないと最高裁の判断が示されています(「コック食品事件」、最判平成8年2月23日民集50巻2号249頁)。
一般的に、休業補償給付は1か月ごとに請求することになりますが、原則的に、休業補償は傷病が治るまで支給が続けられ、傷病が治癒した段階で、支給は打ち切られることになります。
もっとも、症状が残存している場合でも、治療を続けてもそれ以上の改善が見込めない場合には、「症状固定」と呼ばれ、治癒したものとして、支給は同じく打ち切られます。
この場合、障害等級第1級~第7級に該当する身体障害が残ってしまったときは、障害補償という別の補償に切り替わることになります。
第8級から第14級の場合は、等級に応じた障害補償一時金が支払われます。
治癒(症状固定)しない場合、療養期間1年6か月を経過した段階で、傷病等級第1級~第3級に該当する身体傷害が残ってしまったときは、傷病年金に切り替わることになります。
これらの障害がない場合は、続けて治癒(症状固定)に至るまで、休業補償を支給されます。
休業補償は、月給制の労働者であれば、1か月単位で申請することが一般的です。
申請する際は、「休業補償給付支給請求書」(様式第8号)(※通勤災害の場合は様式第16号の6)を記入して労働基準監督署に提出します。
この請求書は、労働基準監督署で入手するか、厚生労働省のホームページでダウンロードすることができます。
また、添付資料として、「医療機関の証明」と「事業主の証明」も提出します。
さらに、初回請求時は、給付額の算定のため、平均賃金算定内訳も記入します。
請求書の提出は、基本的に本人がするものですが、傷病により実際に申請が困難な場合は、会社側が申請書を提出することもあります。
会社は、労働者災害補償保険法施行規則23条2項により、労働者から事業主証明をすることを求められた場合には、これに応じる義務があります。
なお、事業主証明はあくまで「発生した事実の証明」であり、その事実が労災に当たるかどうかを認定するのは労働基準監督署なので、会社が事実を証明しても直ちに労災認定がされるとは限りません。
「もし労災保険給付の支給決定がされた場合、会社側が当該決定の取消を求める原告適格が認められませんので、争う手段はありません(最判令和6年7月4日民集78巻3号662頁)。
どうしても認定該当性について争いたい場合は、労働基準監督署長に対し、意見申出を行うとよいでしょう(労働者災害補償保険法施行規則23条の2)。
」
会社側がどうしても事業主証明を拒む場合は、事業主証明なしで請求書を提出することもあります。
この場合、労働基準監督署は請求書を一度受理した上で、会社側に対し、証明拒否理由書を提出させる運用が一般的となっています。
今回は、休業補償給付について解説をいたしましたが、これらはあくまで休業する際に、生活の保障として国から支払われるというものであり、会社に対しては別途損害賠償請求をすることができる可能性があります。
労災事故についてお悩みの方は、ぜひ一度名古屋総合法律事務所にご相談ください。