時代の流れで減ってきたとはいえ、仕事をしていると避けられない、取引先との飲み会や会社内部での飲み会はまだあると思われます。 これらの飲み会は、業務としてというよりは、任意参加の形がとられていることも多いのではないでしょうか。
さて、こういった飲み会に起因する体調不良や、飲み会からの帰り道に遭った交通事故は、労災保険金の給付の対象とはならないのでしょうか。
労災保険が支給されるためには、負傷、疾病、障害または死亡が、業務上の事由によるものであることが必要です。 業務上の事由によるものであることが認められるためには、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態で負傷、疾病、障害または死亡(災害)が発生したこと(業務遂行性)、 業務に起因して災害が発生したこと(業務起因性)が必要になります。 飲み会における災害の場合、それが業務上の事由による災害であるといえれば、業務災害であると認められ、労災保険金の給付の対象になります。
飲み会に起因する事故を業務災害として認定した判例(最判平成28年7月8日)を紹介します。
ある会社で、親会社の中国における子会社から受け入れていた研修生の歓送迎会をすることになり、工場での、期限が翌日である仕事があるからと参加を断ったAさんが、 上司から顔を出すよう強く要請され、飲み会の後で当該仕事を手伝うと言われたため飲み会に参加しました。 Aさんは終了時刻30分前から飲み会に途中参加し、勧められても飲酒しませんでした。飲食代は福利厚生費から支払われました。 その後、労働者は工場と同じ方向にあったアパートへ社用車で研修生を送る途中、交通事故で死亡しました。
最高裁は、歓送迎会について、研修の目的を達成するために本件会社において企画された行事の一環であると評価することができ、 研修生と従業員との親睦を図ることにより、本件会社及び本件親会社と研修生を送り出していた子会社との関係の強化等に寄与するものであり、 本件会社の事業活動に密接に関連して行われたものであると認定したうえで、Aさんは、会社により、その事業に密接に関連するものである本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、 工場における自己の業務を一時中断してこれに途中参加することになり、歓送迎会の終了後に当該業務を再開するため車両を運転して工場に戻るに当たり、併せて上司に代わり研修生をアパートまで送っていた際に本件事故に遭ったものということができると認定し、 本件事故の際、なお会社の支配下にあったというべきであるとしました。 この判例は、事故に至る事情を「一連の行動」とみて、Aさんが事故当時、会社の支配下にあったと認定しました。
飲み会からの帰り道に例えば交通事故に遭った場合、飲み会が業務と関連性があると認められれば、「通勤災害」に該当する可能性があります。
労働者災害補償保険法において、「通勤災害」とは、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡」と定められています。 同法において、「通勤」とは、労働者が、就業に関し、①住居と就業の場所との間の往復、②厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動、③①の往復に先行し、又は後続する居住間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)を合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする、と規定されています。 飲み会からの帰宅であっても、業務との関連性が失われていない場合は、「就業の場所」からの帰宅であると言えるので、通勤災害となり、労災保険金の給付の対象となります。
飲み会からの帰り道での事故につき、通勤災害と認めた裁判例(仙台地判平成9年2月25日)をご紹介します。 この裁判例は、上記「業務」を、「賃金の対象となる業務よりも広く、労働者が労働契約に基づく使用者の明示、黙示の実質的支配下にあることをいうと解される。」としました。そして、業務である会合が行われた場所でそのまま行われた短時間の懇親会に参加した人が、帰り道に事故で死亡した案件につき、懇親会移行前の業務と懇親会終了後の帰宅行為との間の関連性は失われていなかったと認定し、帰宅中の事故による死亡を通勤災害にあたると認定しました。
「労災」というと、仕事中におきた怪我などの災害を思い浮かべやすいですが、本来の業務における災害ではなくとも労災と認められることがあります。 しかし、そういった災害は、下級審と上級審、労基署と裁判所によって判断が分かれているものも多く、慎重な検討を要します。