傷病手当と労災休業補償給付の違いについて|休業補償・支給額・期間・申請の考え方

弁護士 田村 淳

はじめに

仕事を休まざるを得ないほどのケガや病気になったとき、手元の収入がどうなるかは待ったなしです。会社からは傷病手当金の話が出る一方で、通勤中の事故や仕事中のケガなら労災の対象ではないか、と迷うこともあります。ところが、傷病手当金と労災の休業(補償)給付は、似た名前でも入口が別です。原因の切り分けを誤ると、申請先が違って手続が止まったり、後から返還や切替が必要になったりして、休業中の見通しが立ちにくくなります。

さらに、休業4日目から支給される点は似ていても、待期3日間の意味は同じではありません。支給額も、傷病手当は標準報酬を土台に約3分の2、労災は給付基礎日額を土台に80%相当と、計算の前提が違います。支給期間や治療費の扱いも変わるため、早い段階で一本の線にして整理する価値があります。

この記事のポイント:

①原因で決まる傷病手当と労災休業給付の分岐点

②両制度における待期期間・金額・期間・治療費の違い

③制度利用で迷う場面での申請の組み立てと後日の精算について

傷病手当 労災は「原因」で分かれる──まず押さえる制度の分岐点

業務外の病気やケガは傷病手当、業務・通勤が原因なら労災になる

傷病手当金は、健康保険の給付です。勤務先の健康保険(協会けんぽや健康保険組合)に加入している人が、業務外の病気やケガで療養のために働けず、給与の支払いがない場合に、一定期間、給与の一部が補われます。ここでの起点は「業務外」です。仕事中や通勤中の出来事が原因の傷病は、別の制度で扱われます。

労災の休業(補償)給付は、業務上または通勤による理由で負傷・発病し、療養のため労働できない場合の給付です。対象は、事業に使用され賃金を受けている労働者で、雇用形態を問わない説明がされています。つまり、原因が業務・通勤にあるかどうかで、入口が分かれます。

この切り分けは「有利不利」を比べる話ではありません。原因が業務・通勤にあれば労災側の給付が中心となり、業務外であれば健康保険の傷病手当金が中心になります。

休業4日目から始まる点は同じでも、待期3日間の意味は制度で違う

傷病手当金は、連続する3日間を含めて仕事を休んでいることが条件です。この3日が待期期間になり、4日目以降の休業日が支給対象になります。有給休暇や公休日も含めて3日連続で休めば待期は成立しますが、3日が連続しないと支給開始に結びつきません。ここは、現場で誤解が生じやすい部分です。

労災の休業(補償)給付も、休業4日目以降が支給対象になり、最初の3日間は待期期間になります。ただし、業務上災害では、この3日間について会社が休業補償を行う義務があり、平均賃金の60%以上が求められます。通勤災害では、この会社補償は組み合わない一方で、労災給付が4日目から始まる点は変わりません。

同じ「3日」「4日目」という数字でも、傷病手当は連続要件が効き、労災は業務災害で会社補償が絡みます。休業の初動で収入の見込みがズレるのは、だいたいこの差から始まります。

支給額は「約3分の2」と「約8割」、計算の基礎(標準報酬・給付基礎)も異なる

傷病手当金の支給額は、標準報酬月額を土台に計算します。原則として、支給開始日前の直近12か月間の各月の標準報酬月額の平均額を30日で割り、その2/3が1日あたりの額になります。このため、日給相当額のおおよそ67%が補填される仕組みと説明されることが多く、例えば標準報酬日額が1万円であれば、1日あたり約6,667円が支給されます。

なお、被保険者期間が12か月に満たない場合などには、別の基準による調整計算が行われることがあります。受給した金額は非課税として扱われます。

労災の休業(補償)給付は、給付基礎日額の60%が支給され、さらに休業特別支給金として給付基礎日額の20%が上乗せされます。合計で80%相当となり、給付基礎日額が1万円なら8,000円/日となります。

給付基礎日額は、原則として労災発生日以前3か月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割って算出する平均賃金額です。こちらも非課税所得として扱われます。

休業中に会社から給与や手当が支払われる場合、傷病手当金は調整の対象となり、会社からの支給額が傷病手当金額を上回るときは支給されず、下回る場合には差額が支給されます。

一方、労災の休業(補償)給付では、「療養のため労働できず、その結果として賃金を受けていないこと」が支給要件とされており、休業日に会社から賃金が支払われた場合、その日は原則として休業(補償)給付の対象となりません。傷病手当金のような差額支給の仕組みはなく、賃金の有無が支給可否を左右します。

支給期間は傷病手当が通算1年6か月、労災は治癒・症状固定まで続く

傷病手当金の支給期間は、支給開始日から通算で最長1年6か月です。同一の傷病について、最初に支給された日から起算して1年6か月が経過すると原則終了します。途中で職場復帰している期間は通算から除外される扱いになっています。回復して就労を再開すれば、その時点で給付は止まります。

労災の休業(補償)給付には、傷病手当金のような上限期間が置かれていません。治癒、または症状固定と医師が判断するまで、条件を満たす限り支給が続きます。療養開始から1年6か月が経過しても治癒せず、障害の程度が一定の等級に当たる場合には、休業(補償)給付に代わって傷病(補償)等年金に移行することがあります。

休業が長引くほど、この「通算1年6か月」と「治癒・症状固定まで」の差が生活設計に響きます。原因がはっきりしないまま時間が過ぎると、支給期間の見通しも立ちづらくなります。

治療費の扱いが分かれ、労災は療養補償給付で自己負担が原則生じない

労災には療養(補償)給付があり、業務上・通勤上の災害で負傷・発病した場合、指定医療機関で労災として治療を受ければ治療費は全額が労災保険で負担されます。自己負担が0円になる点は、健康保険で治療する場合に自己負担が生じる点と異なります。

仕事中・通勤中の事故では、労災として治療を受けることが重要だとされています。

傷病手当金は、休業による所得の補填に位置づくため、治療費そのものを補う仕組みとしては語られていません。

申請先と手続が違う──傷病手当か労災給付かで迷うときの進め方と調整

傷病手当は健康保険へ、労災は労基署へ申請し、必要な証明欄も異なる

傷病手当金は、会社を通じて「傷病手当金支給申請書」を健康保険組合または協会けんぽに提出します。申請書には会社の証明欄があり、休業期間や賃金の支払い状況について事業主の記入・証明が必要です。主治医にも就労不可の意見書を記入してもらいます。支給は、申請後に健康保険から申請者の口座に振り込まれ、通常1~2か月程度の見込みです。

労災の休業(補償)給付は、「休業補償給付支給請求書」を管轄の労働基準監督署に提出します。通常は会社が手続きをすることが多いと思われますが、会社が協力しない場合等で労働者本人が直接請求することもあります。請求書に会社側の証明欄はあるものの、会社が協力しない場合でも申請は受理され、事故の事実や業務との因果関係について調査が行われます。認定・審査の後、休業補償給付(60%部分)と特別支給金(20%部分)がまとめて振り込まれます。

労災かどうか判断がつかないときは、生活費確保を優先して手続を組み立てる

業務上か業務外かの判断が難しいケースでは、労災の認定に時間がかかることがあります。その間の生活費を確保するため、まず健康保険の傷病手当金を受給しながら、並行して労災申請を進める選択肢もあり得ます。傷病手当金は支給までの見込みが立ちやすい一方、会社の証明が必要になるため、会社に協力を求める段取りも欠かせません。

この手続きをとる場合、同じ期間に両方の給付を重ねて受け取ることはできません。先に傷病手当金でつなぎ、後で労災の結論に合わせて精算する、という設計になります。事情が複雑で、会社とのやり取りや証明の確保まで含めて整理が必要になるときは、一度、状況の整理をする必要があります。

先に傷病手当を受けた後に労災認定された場合は、後日精算(返還・切替)が前提になる

労災の結論が出る前に傷病手当金を受け、その後に労災と認定されると、受給した傷病手当金は健康保険組合等に返還する必要があります。返還には、労災保険から遡って支給される休業(補償)給付を充てることができます。

返還額は、原則として実際に支給された傷病手当金の総額です。傷病手当金は標準報酬日額の2/3を基礎にしますが、休業期間中に会社から給与が支払われた場合は支給額が調整されます。障害厚生年金や障害基礎年金を同一の傷病で受ける場合も調整があり、年金額を360で割った日額相当額が傷病手当金の日額より少ないときに差額が支給されます。こうした調整を経たうえで、実際に振り込まれた額の合計が返還対象になります。

休業中に会社から賃金が出る場合は、いずれの給付でも調整が入る

傷病手当金は、休業中に会社から給与や有給手当が支給される場合、その額が傷病手当金より多いと支給されません。会社からの支給額が傷病手当金の日額より少ない場合は差額が支給されます。休業しているのに支給が思ったほど増えない、あるいは出ない、というズレはここで起きます。

労災の休業(補償)給付では、「療養のため労働できず、その結果として賃金を受けていないこと」が支給要件とされており、休業日に会社から賃金が支払われた場合、その日は原則として給付の対象となりません。業務上災害では、待期3日間について会社が平均賃金の60%以上を補償する義務があり、休業初期から会社の支払いが関係します。

労災申請に会社が消極的でも、本人申請の道がある一方で傷病手当は会社証明が実務上の壁になり得る

労災は、労働者本人が労基署に請求でき、会社の協力がなくても申請が受理されます。会社が非協力的な場合でも、申請そのものが止まる構造ではありません。

これに対して、傷病手当金は会社の証明欄が手続の中核です。医師の意見書に加え、申請期間中の勤務状況や賃金の支払い状況について事業主の記入・証明が必要になります。さらに、労災を請求中である場合や労災給付を受けている場合は、申請書の本人記入欄で正直に記入する必要がある、とされています。こうした申告をした場合、支給調整で受給できない可能性があり、具体的な取扱いは加入する健康保険組合等で異なることがあるため、事前確認が推奨されています。

最後に

傷病手当金と労災の休業(補償)給付は、休業中の収入を支える制度ですが、入口は受傷原因で分かれます。原因が定まれば、待期3日間の意味、支給額の計算の土台、支給期間、治療費の負担、申請先がはっきりします。

判断が割れる場面では、生活費の確保を優先しつつ、後で返還・切替を行う前提で手続を組み立てることができます。会社からの賃金支払いの有無や、証明の確保も含めて先に整理しておくと、精算の局面で慌てずに済みます。

会社の対応や認定までの時間など、事情が重なるほど段取りは複雑になります。そうした場合は、一度弁護士へご相談ください。