通勤中の犯罪被害は労災になる?
―通勤災害と「業務起因性」の考え方-

弁護士 秋吉 一秀

1 はじめに

昨今、無差別な暴力事件の報道が目立つようになりました。残念ながら、通勤途中や仕事中に事件に巻き込まれてしまう可能性もゼロではありません。例えば、仕事中に事件へ巻き込まれ、怪我を負った場合、労働災害に認定される可能性はあるのでしょうか。

2 「業務遂行性」と「業務起因性」

労働災害(労災)と認定されるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」が必要になります。詳細は、下記リンクをご参照ください。
https://roudousaigai.net/kiso/

仕事中である以上、「業務遂行性」は認められますが、事件の発生が業務に起因するのか、すなわち、「業務起因性」が問題となります。

3 犯罪被害に遭った場合の業務起因性の判断

たとえば、通り魔や暴漢による無差別な加害行為は、加害者の個人的動機に基づいているため、業務との直接的関係は薄いとされがちです。一見すると、業務起因性はないとも考えられます。しかし、実際の労災認定は、業務起因性を認めた事例が複数存在します。

平成20年6月8日に発生した秋葉原無差別殺傷事件は、業務起因性が問題となった事案として有名な事件です。当該事件をきっかけに、厚生労働省は、「他人の故意に基づく暴行による負傷の取扱いについて」と題する通達(基発0723第12号)を出しています。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb6423&dataType=1&pageNo=1

同通達は、仕事中または通勤途中である際に、他人の故意に基づく同行によって負傷した労働者については、
①「当該故意が私的怨恨に基づくもの、自招行為によるものその他明らかに業務に起因しないものを除き」、
②「業務に起因する又は通勤によるものと推定することとする」との判断基準を示しています。
そうすると、上記①に挙げた事情に該当しない場合には、業務起因性が推定されるため(上記②)、労働災害として認定される可能性があると言えます。

4 まとめ

仕事中または通勤中に犯罪に巻き込まれた場合でも、労災として認定される可能性があります。とはいえ、状況によって判断が分かれることもあるため、実際に労災申請を検討する際は、労働法に詳しい弁護士への相談をおすすめします。