飛来・落下物事故は、建設業、製造業及び運送業の現場では、少なくない事故態様です。
厚生労働省により公表されている「労働災害発生状況」によれば、令和3年に発生した労働災害で、令和3年に発生した労働災害での死亡者数867人のうち、「飛来・落下」を原因とする死亡者数は、38人(全体の約4%)であり、死亡のリスクが、一定程度ある危険な事故類型です。
飛来・落下物事故は、高重量の物が衝突してしまった場合には、衝撃が大きいため、上述の通り、死亡に至ってしまう場合もありますが、死亡に至らない場合であっても、頭や体に大きな損傷が発生する危険があり、脊髄損傷による神経系統の機能障害、脊椎圧迫骨折による骨の癒合不全や神経系統の機能障害、頭部損傷を原因とする高次脳機能障害等、様々な後遺障害が発生する危険があります。
後遺障害が認定されるかどうかによって、認められる損害額に大きな差が出るため、どのような後遺障害が認定される可能性があるかは、専門家に相談した方が良いでしょう。
では、飛来・落下物事故に遭ってしまった場合、誰に対して責任を追及することができるでしょうか。
まず、会社に対して安全配慮義務違反が追及できる可能性があります。
また、他の従業員が物を落としたりした場合には、原因となった従業員に対する損害賠償請求に加え、会社に対して使用者責任を追及できる可能性もあります。
このような責任を追及するにあたっては、会社の安全配慮義務の内容や、事故態様(どのように事故に至ったのか)等に関し、有利な証拠をきちんと収集して立証する必要があります。
以下では、飛来・落下物事故における安全配慮義務違反に関し、参考となる裁判例を紹介します。
ア 事案の概要 | Aは、B社に勤務し、訴外C社の製鉄所構内のD社の作業所(以下「作業所」という。)において、走行用型ホイスト・クレーン(以下「本件クレーン」という。)を操作していたところ、破損した管台リング(以下「リング」という。)が落下し、Aの右足がはさまれて、右膝蓋骨脱臼、右下腿骨開放性骨折の傷害を負ったことから、安全配慮義務違反を理由に、B社とD社に対し、損害賠償請求をした事案。 |
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イ 争点 | ① B社とD社に安全配慮義務違反が認められるか。 ② Aに過失があるか、過失があるとして、過失割合は、何割か。 |
ウ 判断 | ① B社とD社の安全配慮義務違反について ② 過失割合について |
エ 所感 |
本件では、クレーンを運転する資格を有していない者がクレーンを操作していたのを黙認していた点、滑走による危険を防止するために走行ブレーキを取り付ける必要があったのに、これをしなかった点から、安全配慮義務違反が認められました。 安全配慮義務違反の認定の際には、どのような原因により、事故が発生したのかを特定することが重要になります。 他方で、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をする側が、危険を伴う作業を行うにあたり、安全に作業するために必要な注意を怠っていたことから、3割の過失割合が認められました。 安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をする側に、不注意があった場合には、大きな過失割合が認められる場合も多いため、注意が必要です。 |