労災事故でご家族を亡くされた方へ

弁護士 田村 淳

突然の労災事故によって大切な家族を失うことは、遺族にとって計り知れない悲しみと不安をもたらします。何をどうすればいいのか分からず、経済面でも精神面でも先行きに戸惑われていることでしょう。しかし、労災保険には遺族への補償制度が用意されており、さらに企業に対する損害賠償を検討できる場合もあります。本ページでは、労災による死亡事故の最新の統計、遺族が請求できる補償の種類、弁護士に相談するメリットまで、遺族の皆様に知っておいていただきたい情報を解説します。少しでも不安を和らげ、正当な補償を受け取る一助となれば幸いです。

労災死亡事故の発生状況

労災死亡事故とは何か

「労災死亡事故」とは、労働者が業務中または通勤中に被った事故や災害が原因で死亡したケースを指します。これは労働災害(業務上災害または通勤災害)の一種であり、労働者が仕事中もしくは通勤中に負った傷病によって命を落とした場合に、労災保険から所定の遺族補償給付が支給される対象となります。例えば、工場や建設現場での事故死、通勤途中の交通事故死、過労による急病死(過労死)や過労自殺(労災自殺)などがこれに該当します。労災死亡事故が発生した際には、事業主は速やかに労働基準監督署への報告義務を負い、遺族は労災保険給付を請求できる仕組みです。

労災死亡事故の発生件数(最新統計)

厚生労働省の発表によれば、令和5年(2023年)に発生した労働災害による死亡者数は755人で、前年より19人(2.5%)減少し、過去最少を更新しました。なお、この数値は新型コロナウイルス感染症による業務上死亡(同年は4人)を除いたものです。死亡災害は、平成25年の1,030人と比較して大幅に減少しており、長期的な安全対策の進展がうかがえます。仕事中もしくは通勤中に負った傷病によって命を落とした場合に、労災保険から所定の遺族補償給付が支給される対象となります。例えば、工場や建設現場での事故死、通勤途中の交通事故死、過労による急病死(過労死)や過労自殺(労災自殺)などがこれに該当します。労災死亡事故が発生した際には、事業主は速やかに労働基準監督署への報告義務を負い、遺族は労災保険給付を請求できる仕組みです。

しかし、死亡には至らなかったものの休業4日以上の死傷者数は、令和3年が130,586人、令和4年が132,355人、そして令和5年には135,371人と3年連続で増加しています。平成25年は118,157人であったことから、死傷災害は長期的に見ても増加傾向にあり、事故そのものの発生件数は依然として高水準であると言えます。仕事中もしくは通勤中に負った傷病によって命を落とした場合に、労災保険から所定の遺族補償給付が支給される対象となります。例えば、工場や建設現場での事故死、通勤途中の交通事故死、過労による急病死(過労死)や過労自殺(労災自殺)などがこれに該当します。労災死亡事故が発生した際には、事業主は速やかに労働基準監督署への報告義務を負い、遺族は労災保険給付を請求できる仕組みです。

業種別に見る労災死亡事故の傾向

令和5年の統計によると、労災死亡事故は特定の業種に集中する傾向が明確に表れています。

  • 建設業(223人)

    全体の約3割を占め、死亡者数では最多。高所作業や重量物の取り扱い、足場の設置・解体中などに発生する墜落・転落事故、クレーンや重機による事故が主な原因です。特に土木工事業・建築工事業での発生が目立ちます。

  • 製造業(138人)

    機械操作中のはさまれ・巻き込まれが典型的で、プレス機やフォークリフト、搬送装置などへの接触が多くを占めます。安全装置の不使用や教育不備が背景にあることも指摘されており、安全対策の徹底が求められます。

  • 陸上貨物運送事業(110人)

    トラック運転中の交通事故が大多数を占め、過労運転や高速道路での多重事故などが原因です。宅配便等の需要増により長時間労働が常態化していることも、事故リスクを高めています。

  • 商業(72人)

    小売業・卸売業などを含みます。倉庫内作業中の事故、荷役作業中の転落、商品配送中の交通事故などが主因です。高齢従業員の多い業種でもあり、転倒や無理な動作も発生要因として挙げられます。

  • 林業(29人)/警備業(35人)など

    林業では伐採中の倒木事故や重機の転倒事故が、警備業では工事現場での誘導中の交通事故や不審者対応時の死亡が報告されています。いずれも現場の危険性が高く、現場環境に応じた対策の不備が致命的結果につながることが特徴です。

事故の型別:主な死亡事故原因

労災死亡事故は、令和5年の統計では、以下の3類型が突出しています。

  1. 墜落・転落(204人)
    全体で最多を占め、高所での作業中に足場から落下するケースが典型です。屋根や開口部からの転落、脚立やはしごからの転落も含まれます。建設業を中心に発生し、安全帯の未使用や足場不良などが原因として多く報告されています。

  2. 交通事故(道路)(148人)
    業務中の車両運転による事故で、トラック運転手の衝突事故や営業・配達中の移動による事故が含まれます。通勤途中の事故による死亡も該当します。安全運転指導や運転時間管理など、企業による交通安全対策が鍵となります。

  3. はさまれ・巻き込まれ(108人)
    機械の可動部分に巻き込まれる、フォークリフトと壁に挟まれる、クレーンの回転部に巻き込まれる等の事故です。製造業の工場で多く、停止措置の不備や安全装置の解除など人為的なミスが背景にあることも少なくありません。

そのほかにも、感電・爆発・火災、重量物の崩壊・倒壊、夏場の熱中症による死亡なども毎年一定数発生しています。これらは「防げたはずの事故」であることが多く、職場ごとのリスクに即した対策の実施が不可欠です。

遺族が請求できる労災保険給付

被災労働者が業務または通勤に起因する災害で亡くなった場合、遺族は労災保険から次のような補償を受けることができます。

1. 遺族(補償)等給付

①遺族(補償)等年金

被災労働者の死亡当時、その収入で生計を維持していた遺族(配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹のうち一定の年齢や障害要件を満たす者)がいる場合、以下の給付が受けられます。

  • 遺族(補償)等年金:給付基礎日額に遺族数に応じた日数を乗じた額
    (例:1人なら153日分、4人以上なら245日分)
  • 遺族特別支給金:一律300万円の一時金
  • 遺族特別年金:上記日数に算定基礎日額を乗じた額
  • 時効:死亡の翌日から5年
②遺族(補償)等一時金

遺族年金を受け取れる要件を満たす遺族がいない場合、または年金受給者が全員受給を終えた場合などには、一時金が支給されます。

2. 葬祭料(葬祭給付)

葬儀を行った者に支給されるもので、遺族に限らず「実際に葬祭費を支出した人」が対象です。

  • 支給額
    ①315,000円+給付基礎日額の30日分
    ②上記①が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分
  • 時効:死亡の翌日から2年

3. 未支給の保険給付

被災労働者に保険給付(療養給付、休業給付等)の未支給分があった場合、それを請求できる場合があります。

  • 請求権者:配偶者・子・父母などで、生計同一関係がある遺族、またはいない場合は相続人
  • 時効:各給付の請求権に準じる(通常2〜5年)

4.損益相殺との関係

遺族補償年金や一時金、葬祭料などの労災保険給付は、損益相殺の対象となります。すなわち、加害者(会社や第三者)に対する損害賠償請求(慰謝料・逸失利益など)において、既に労災保険から支払われた給付がある場合には、その分が差し引かれることがあります。
ただし、給付金によっては費目限定があることや、年金については支給が確定した部分に限られる等一定の制約があることに注意が必要です。
また、遺族特別支給金や遺族特別年金はそもそも損益相殺の対象とはなりません。

会社への損害賠償請求

労災事故が発生したとき、「労災保険を使ったら会社に賠償は請求できないのでは?」と心配される方は少なくありません。しかし、労災保険から給付を受けても、会社に対して損害賠償を請求することは可能です。

労災保険は、あくまで国が提供する最低限の補償制度であり、企業に法的な責任がある場合には、別途「慰謝料」や「逸失利益」などの損害を賠償請求することができます。

1.慰謝料

労災保険からは慰謝料は支給されないため、過失のある会社や加害者に対して民事上の損害賠償請求をすることが可能です。

死亡事故の場合、裁判基準における慰謝料の相場は以下のようになります。

  • 一家の大黒柱が亡くなったケース:2,000万〜2,800万円程度
  • 子や高齢者の場合でも、扶養関係などによって金額が変動

実際には、会社の安全配慮義務違反が明らかであれば、数千万円規模の慰謝料が認められる可能性があります。

2.死亡逸失利益

逸失利益とは、亡くなった方が将来得られたであろう収入等(給与収入、役員報酬、年金収入等)を指し、経済的な損失を補填するためのものです。

逸年収500万円の若年労働者が亡くなった場合、将来得られたであろう賃金の累積額から生活費相当分を差し引く等により計算します。結果として、数千万円から1億円を超える逸失利益が認定されることもあります。

このような逸失利益も、労災保険ではカバーされないため、企業側に明確な過失がある場合には、損害賠償請求の対象になります。

3.労災保険請求と会社への請求は「両立可能」

重要なのは、「労災保険の給付を受けるか」「会社に損害賠償を請求するか」の二者択一ではないという点です。

むしろ、両方を適切に組み合わせることで、遺族が受け取れる補償は大きく異なってきます。慰謝料や逸失利益といった大きな金額の補償は、民事上の請求でしか得られないため、労災申請とは別に企業責任を追及する対応も並行して進めることが望ましいのです。

弁護士に相談するメリット

労災死亡事故は法律や手続きが複雑であり、遺族だけで対処するのは大変困難です。そんな中で弁護士など専門家に相談・依頼するメリットは数多くあります。

  • 適切な証拠収集と立証: 弁護士は労災や損害賠償の専門知識を持ち、どのような証拠が必要か熟知しています。現場の安全管理状況の写真、関係者の証言確保など、遺族だけでは難しい証拠集めも弁護士のサポートで効率的に進められます。十分な証拠が揃えば、労災認定もスムーズになり、会社の過失追及も有利になります。
  • 交渉や手続きの代理による心理的負担軽減:大切な家族を亡くした直後に、遺族が自ら会社と交渉したり書類作成したりするのは大きな精神的ストレスです。弁護士に依頼すれば、労基署とのやり取り会社との賠償交渉を代理人として任せることができます。遺族は必要な判断や意思決定に集中し、そのほかの煩雑な連絡や調整は弁護士が代行します。これは心労を和らげ、遺族が悲しみに向き合う時間を確保する上でも非常に有益です。
  • 補償金額・賠償金額の最大化: 専門の弁護士に依頼することで、結果的に受け取れる金額が大きく増える可能性があります。

    弁護士が裁判基準で慰謝料や逸失利益を算定・主張することで適正賠償を獲得でき、また会社の過失(安全配慮義務違反)を適切に主張することができます。

    「弁護士費用がかかるから…」と敬遠される方もいますが、死亡事故の場合、賠償額が高額になることが多く費用対効果は十分に見合うケースが大半です。
  • 手続きの迅速化と的確な対応: 労災申請や訴訟手続きは期限管理や専門知識が要求されます。弁護士に依頼すれば、申請期限の徒過や書類不備によるやり直し等を防げます。また、裁判になった場合も、遺族本人では気付きにくい法的論点を的確に主張・反論することが期待できます。特に会社側も通常は弁護士を立ててくるため、こちらも専門家で対抗することが早期解決につながります。
  • 二次被害の防止とサポート: 時として、会社側から遺族に直接連絡が来て円満解決を装い示談を迫られたり、「労災申請しないでほしい」と懇願されるケースもあります。しかし感情に流されその場で応じてしまうと、本来受けられるはずであった補償・賠償が受けられず生活不安につながるおそれもあります。そうした不当な働きかけを遮断し、正当な手続きを踏むことができます。

以上、労災による死亡事故に関する必要な情報を総合的にご説明しました。残されたご遺族の方にとって、金銭的な補償がすべてではないかもしれません。しかし、適切な補償を受け取ることはこれからの生活を支えるだけでなく、事故の真相解明や再発防止策にもつながります。どうか一人で抱え込まず、然るべき制度や専門家を活用して少しでも早く安定を取り戻されることを願っております。お困りの際は当事務所でも無料相談を受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。遺族の皆様に寄り添い、最善の解決に向けて全力でサポートいたします。

労災死亡事故に関するよくある質問と回答

Q1. 労災の申請から給付金を受け取るまで、どれくらい時間がかかりますか?

A: ケースにもよりますが、労災保険の遺族補償給付の申請については、提出からおおむね1〜3ヶ月程度で支給決定されることが多いです。労働基準監督署での事実関係調査に時間がかかる場合や、業務起因性の判断が難しい場合は半年以上要することもあります。一方、会社への損害賠償請求は示談交渉で解決するなら数ヶ月〜1年程度、裁判まで行けば1〜3年程の長期戦になることもあります。ただし遺族補償年金など労災から受け取れるお金は先行して受給できますので、まずは労災申請を早めに行うことをおすすめします。

Q2. 労災保険を使ったり会社に賠償請求したりすると、会社とトラブルになりませんか?

A: ご心配はもっともですが、労災保険の申請は遺族の正当な権利であり、会社に遠慮する必要はありません。保険給付はあくまで国から支払われるものであり、申請したからといって会社に直接の損失が発生するわけではありません。むしろ、労災申請をしないことが「労災隠し」とされ、会社側が行政処分を受ける可能性もあります。
また、会社に過失がある場合には、損害賠償請求を別途行うことも可能ですが、必ずしも対立的な関係になるとは限りません。多くの会社は訴訟リスクを避け、誠実に対応する傾向にあります。さらに、弁護士が代理人として対応することで、遺族と会社が直接やり取りする必要はなく、精神的な負担を減らすことができます。不当な圧力を感じた場合は、労働局や弁護士に早めに相談してください。

Q3. 会社から「うちは労災保険に入っていない(労災は使えない)」と言われました。本当に申請できないのでしょうか?

A: 申請できます。労災保険は、法律により事業主に強制加入が義務づけられている制度です。会社が「加入していない」と言っても、労働者を1人でも雇っていれば、本来加入していなければならず、未加入は違法です。

仮に未加入であっても、国がいったん給付を立替えて支払い、後から会社に請求する仕組みになっています。つまり、会社が加入していないことを理由に、遺族が労災申請を諦める必要は一切ありません。

また、「業務中ではない」などと会社が判断を下すこともありますが、労災に当たるかどうかの判断を行うのは労働基準監督署です。会社が協力的でなくても、死亡診断書や勤務記録など必要な書類をそろえれば、遺族自身で申請できます。不安な点があれば、迷わず労基署や弁護士にご相談ください。