給付の内容

業務に起因して、または通勤中の事故によって労働者が死亡した場合、遺族は労災保険に遺族(補償)給付を請求することができます。
業務災害の場合は「遺族補償給付」、通勤災害の場合は「遺族給付」となります。

給付の種類

遺族(補償)給付には、①遺族(補償)年金②遺族(補償)一時金の2種類があります。

※①遺族(補償)年金には、年金形式でなく前払いで受けることができる「遺族(補償)年金前払一時金」もあります。

遺族(補償)年金

受給権者および受給権者と生計を同じくしている受給資格者の人数により、下記の額とされています。

 
人数遺族(補償)年金
1人 給付基礎日額の153日分
ただし、55歳以上または一定の障害の状態にある妻は175日分
2人 給付基礎日額の201日分
3人 給付基礎日額の223日分
4人以上 給付基礎日額の245日分
 

額の改定

遺族の数が増減したり、年齢要件、障害要件に変動があったときは、その翌月から支給額が改定されます。例えば、受給資格者のうち、どなたかが亡くなれば遺族の数が減りますし、被災労働者の死亡当時胎児だった子が出生すれば遺族数が増えることとなります。

 

受給資格者

 

受給の資格のある遺族とは、労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持されていた配偶者・子・父母・祖父母・兄弟姉妹です。
このうち妻以外の遺族については、労働者の死亡当時、一定の年齢にあるか、あるいは一定の障害状態(障害等級第5級以上かこれと同等以上に労働が制限されている状態)にあることが必要とされています。
一般に遺族とよばれる方が、自由に請求できるわけではないことに注意が必要です。

なお「労働者の死亡の当時、労働者の収入によって生計を維持していた」とは、もっぱら又は主として労働者の収入によって生計を維持されていることを要せず、労働者の収入によって生計の一部を維持していた、いわゆる共稼ぎの場合もこれに含まれます。

受給資格者のうち、最先順位者である「受給権者」に対して支給されます。

 
 

受給権者

実際に受給できるのは、受給資格者のうち下記① ~⑦の最先順位者(受給権者)のみとされています。
最先順位者が複数いれば、その全員が受給権者となります。

  • ① 妻、60歳以上または一定障害の夫
  • ② 18歳に達する日以後最初の3月31日までの間にあるか、一定障害※1の子
  • ③ 60歳以上または一定障害※1の父母
  • ④ 18歳に達する日以後最初の3月31日までの間にあるか、一定障害※1の孫
  • ⑤ 60歳以上または一定障害※1の祖父母
  • ⑥ 18歳に達する日以後最初の3月31日までの間にあるか、60歳以上または一定障害※1の兄弟姉妹
  • ⑦ 55歳以上60歳未満の夫※2
  • ⑧ 55歳以上60歳未満の父母※2
  • ⑨ 55歳以上60歳未満の祖父母※2
  • ⑩ 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹※2

※1…障害等級第5級以上かこれと同等以上に労働が制限されている状態
※2「若年停止」…⑦~⑩の者が受給権者となっても、60歳になるまでは年金の支給は停止されること。
後述の「遺族補償年金前払一時金」は請求することができます。

請求手続き

死亡日の翌日から起算して5年以内に、「遺族補償年金支給請求書」(様式第12号)または「遺族年金支給請求書」(様式第16号の8)を所轄労働基準監督署長に提出します。その際に、受給権者の戸籍謄本等の書類を添付します。

受給権者が2人以上いる場合は、原則としてそのうちの1人を代表者に選任(「遺族(補償)年金代表者選任(解任)届」(様式第7号)を提出)して、年金の請求と受領を行う必要があります。一部例外を除き、同順位の受給権者が別々にそれぞれ年金を等分して受領することはできません。

時効

死亡日の翌日から起算して5年を経過すると、時効により請求権が消滅します。

いつまで受給できるか

遺族(補償)年金がいつまで受給できるか、ということですが、受給者ごと基準が異なります。例えば、妻については、第三者と再婚をすると妻の遺族補償年金の受給権は消滅し、次順位者に権利が移ります※3し、子については、母の再婚相手と養子縁組した場合でも失権しない、等です。
遺族(補償)年金の受給資格または受給権は、受給資格者または受給権者が次の事由のいずれかに該当したときに消滅します。(失権といいます)

※3「転給」…死亡などにより最先順位者が失権し、次順位者が受給権者となること。

失権の条件

  • ①死亡したとき
  • ②婚姻(事実上の婚姻関係を含む)したとき
  • ③直系血族または直系姻族以外の者の養子(事実上の婚姻関係を含む)となったとき
  • ④離縁によって死亡労働者との親族関係が終わったとき
  • ⑤子・孫・兄弟姉妹が18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したとき
    (ただし、労働者の死亡時から引き続き障害の状態にある場合を除く)
  • ⑥障害状態にある(障害等級第5級に該当している)ため受給資格者となった者について、その障害状態がなくなった(障害状態第5級以上に該当しなくなった)とき

遺族(補償)年金前払一時金

遺族(補償)年金の受給権者がその請求の際に希望すれば、年金の形式でなく、給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分のいずれかの額を自由に選択し、前払いを受けることができます。

この前払い請求は1回限りであり、何度も前払いを受けることはできません。また、若年停止により年金が支給停止されている場合でも、前払いをうけることが可能です。

労働者が死亡された場合には、まとまった金銭が必要になるということも少なくありません。このような場合を想定し、受給権者の請求があれば、給付基礎日額の1,000日分を上限とし前払金として受給できるというものです。

前払一時金が支給されると、遺族補償年金は毎月分の額の合計が前払一時金の額に達するまで支給停止されます。

請求手続き

遺族補償年金の支給請求と同時に、もしくは、被災労働者の死亡日の翌日から2年以内かつ年金の支給決定通知のあった日の翌日から起算して1年以内に、「遺族(補償)年金前払一時金請求書」(様式第1号)を提出して行います。

時効

死亡日の翌日から起算して2年を経過すると、時効により請求権が消滅します。

遺族(補償)一時金

  • 労働者の死亡当時、遺族(補償)年金の受給資格者がいない場合
  • 遺族(補償)年金の受給権者がすべて失権した場合で、その支給済総額が、給付基礎日額の1,000日分に達していない場合

上記2要件のいずれかに該当する場合には「遺族(補償)一時金」を受給できます。

要件
労働者の死亡当時、遺族(補償)年金の受給資格者がいないとき 給付基礎日額の1000日分
遺族(補償)年金の受給権者がすべて失権し、支払われた年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に達していないとき 給付基礎日額の1000日分と
左記合計額の差額

受給資格者

次の①~④のうち最先順位者が受給権者となります。

  • ①配偶者
  • ②労働者の死亡当時その収入により生計を維持されていた子・父母・孫・祖父母
  • ③生計維持関係のない子・父母・孫・祖父母
  • ④兄弟姉妹

※子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹という身分は、死亡労働者の死亡当時の身分を指します。

請求手続き

死亡日の翌日から起算して5年以内に、「遺族補償一時金支給請求書」(様式第15号)または「遺族一時金支給請求書」(様式第16号の9)を所轄労働基準監督署長に提出します。その際に、生計維持関係を証明する書類、受給権者の戸籍謄本等の書類を添付します。

時効

死亡日の翌日から起算して5年を経過すると、時効により請求権が消滅します。