業務に起因しケガや病気にかかり、その傷病の状態が症状固定(治ゆ)したとき、身体に一定の障害が残った場合に「障害(補償)給付」が支給されます。
一般に労災が起き、労災保険を請求する場合、次のような経過をたどることになるでしょう。
医療機関を受診 | 療養給付・療養(補償)給付または療養の費用の給付を受ける |
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労務不能な状態である間は休業 | 休業(補償)給付を受ける |
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療養開始後1年6ヶ月経過した日 | 症状固定(治ゆ)していない場合→療養開始後1年6ヶ月が経過したときに傷病(補償)年金等級(1から3級)に該当する場合は傷病(補償)年金へ切替え |
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症状固定(治ゆ)した | 療養(補償)給付の打切り、障害(補償)給付の認定申請 |
このように、業務や通勤に起因するケガや病気の治療、療養をした末に症状が固定(治ゆ)し、結果として身体に一定の後遺障害が残存した場合、障害(補償)給付の申請をすることができます。
ここでポイントとなるのが、労災保険における「治ゆ」とはどのような状態のことを指すのか、ということです。一般の「治った」という意味合いとは異なりますので注意が必要です。
身体の諸器官・組織が健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうのではなく、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態のこと。
障害(補償)年金および一時金は、給付基礎日額*1を基礎とし、
障害特別年金と障害特別一時金は、算定基礎日額*2を基礎として支給されます。
*1 給付基礎日額・・・労災保険において、現金給付を受ける際に支給額の計算の基礎となるもので、原則として、労働基準法の平均賃金に相当する額のこと。災害発生前3ヶ月間の賃金(通勤手当、時間外手当等諸手当を含む。臨時的に支払われたもの、いわゆる賞与は含まない)を原則的にはその期間の歴日数で割った1日あたりの賃金額のこと。
*2 算定基礎日額・・・原則として被災日(事故発生日)または診断によって病気にかかったことが確定した日以前1年間に、その労働者が事業主から受けた特別給与の総額(算定基礎年額)を365で割った額
ただし、次のイ、ロと原則の算定基礎年額を比較し、いずれか低い額が算定基礎年額となる。
障害特別支給金、障害特別年金、障害特別一時金は、労働福祉事業として、労災保険給付の上乗せとして支給されるものです。
障害(補償)給付で支給される金額は、下記表の通りです。
障害等級 | 年金 |
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第1級 | 給付基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 |
第4級 | 給付基礎日額の213日分 |
第5級 | 給付基礎日額の184日分 |
第6級 | 給付基礎日額の156日分 |
第7級 | 給付基礎日額の131日分 |
一時金 | |
第8級 | 給付基礎日額の503日分 |
第9級 | 給付基礎日額の391日分 |
第10級 | 給付基礎日額の302日分 |
第11級 | 給付基礎日額の223日分 |
第12級 | 給付基礎日額の156日分 |
第13級 | 給付基礎日額の101日分 |
第14級 | 給付基礎日額の56日分 |
障害等級 | 一時金 |
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第1級 | 342万円 |
第2級 | 320万円 |
第3級 | 300万円 |
第4級 | 264万円 |
第5級 | 225万円 |
第6級 | 192万円 |
第7級 | 159万円 |
第8級 | 65万円 |
第9級 | 50万円 |
第10級 | 39万円 |
第11級 | 29万円 |
第12級 | 20万円 |
第13級 | 14万円 |
第14級 | 8万円 |
※障害特別支給金については、同一の障害につき、すでに傷病特別支給金を受給した場合は、その差額のみの支給となります。
障害等級 | ||
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第1級 | 算定基礎日額の313日分 | |
第2級 | 算定基礎日額の277日分 | |
第3級 | 算定基礎日額の245日分 | |
第4級 | 算定基礎日額の213日分 | |
第5級 | 算定基礎日額の184日分 | |
第6級 | 算定基礎日額の156日分 | |
第7級 | 算定基礎日額の131日分 |
障害等級 | ||
---|---|---|
第8級 | 算定基礎日額の503日分 | |
第9級 | 算定基礎日額の391日分 | |
第10級 | 算定基礎日額の302日分 | |
第11級 | 算定基礎日額の223日分 | |
第12級 | 算定基礎日額の156日分 | |
第13級 | 算定基礎日額の101日分 | |
第14級 | 算定基礎日額の56日分 |
障害等級第1級から第7級に該当するとき | 障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金が支給されます。 |
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障害等級第8級から第14級に該当するとき | 障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金が支給されます。 |
1級が一番重い障害なのに、1級より8級のほうが給付基礎日額の日数が多く、不思議に思われる方がいるかもしれません。しかし、年金は毎年もらえる(実際は2ヶ月に一度の偶数月に支給されます)のに対し、一時金はその名の通り1回限りです。
つまり、1級に認められた方は毎年313日分の給付をもらえるのに対し、8級は一回503日分を受給したらそれで受給終了となります。
また、障害等級第8級~14級に認定され、障害(補償)一時金を受給した場合、その後症状が良くなっても悪くなっても額の改定は行われません。
症状固定(治ゆ)された後は、一時的にまとまった金銭が必要となることが多いことでしょう。障害補償年金の受給権者は、希望すればその請求の際に、等級に応じ下表のいずれかの日数分の額を選択し、前払いを受けることができます。ただし、前払いを受けることができるのは一回限りです。
前払一時金が支給されると、毎月分の額の合計が前払一時金の額に達するまで支給停止されます。
障害等級 | 支給日数(給付基礎日額) |
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第1級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分、1200日分または1340日分の中から選択 |
第2級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分または1190日分 |
第3級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分または1050日分 |
第4級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分または920日分 |
第5級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分または790日分 |
第6級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分または670日分 |
第7級 | 給付基礎日額の200日分、400日分または560日分 |
治ゆした日の翌日から起算して5年以内に、「障害補償給付支給請求書」(様式第10号)または「障害給付支給請求書」(様式第16号の7)を所轄の労働基準監督署長に提出します。
各請求書には、医師または歯科医師の診断書の添付が必要となります。その診断書代も労災保険に請求することができます。その場合は、「療養補償給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)または「療養給付たる療養の費用請求書」(様式第16号の5)を併せて提出します。
原則として年金の支給請求と同時に、もしくは、年金の支給決定通知のあった日の翌日から起算して1年を経過する日までの間に、「障害(補償)年金前払一時金請求書」(様式第10号)を提出します。
労災の後遺障害として障害(補償)給付の請求をする場合、障害認定されなければ障害(補償)年金を受給することが出来ません。認定は、被災労働者が提出した請求書および医師または歯科医師の作成した診断書により審査されます。そのため、この診断書の記載内容が極めて重要であることはいうまでもありません。
不支給決定となった場合または決定された障害等級に不服がある等、労働基準監督署長の下した処分について納得がいかない場合、審査請求、再審査請求または訴訟を行うことができます。
各都道府県の労働局で労災についての審査を行う「労働者災害補償保険審査官」に審査請求を行うことができます。提出先は各都道府県労働局となります。処分のあったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内に行う必要があります。
審査請求の決定にも納得がいかない場合、労災保険の処分決定に関し第二審行政不服審査を行う「労働保険審査会」に再審査請求を行うことができます。審査請求の処分結果を知った日の翌日から2ヶ月以内に行う必要があります。
しかし、審査請求あるいは再審査請求によって、一度決定された内容を覆すのは大変困難といわざるを得ません。
労災により後遺障害となった場合、ご自身の障害の程度を正しく医学的に証明された上で、障害(補償)給付の請求手続きに進むことが重要になります。
最初の請求時に、労災手続きに精通した弁護士、社会保険労務士にご相談されることをお勧め致します。
障害(補償)年金または障害(補償)一時金の請求権は、傷病が治ゆした日の翌日から5年で時効により消滅すると定められています。労災保険の他の給付に比べ長いように感じますが、請求漏れのないよう注意が必要です。