「労働災害における保有個人情報開示請求制度の活用について」

はじめに

 仕事中または通勤による負傷や疾病が治癒(症状固定)した際、身体に一定の障害が残り、法令で定められた障害等級に該当する場合には、労働基準監督署から、その障害の程度に応じて一時金が支給されることがあります。

一時金の支給については、労働基準監督署から被災された方に「一時金支給決定通知」が届きます。しかし、労働基準監督署がどのように判断し、一時金の支給を決定したのかについては、「一時金支給決定通知」から読み取ることはできません。

本ブログでは、一時金の支給決定について、労働基準監督署がどのように考え、判断したのかを知る方法についてご説明させていただきます。

2 保有個人情報開示請求

(1)開示の対象

 通常、労働基準監督署は、「療養の給付請求書」「療養の費用請求書」「休業給付請求書」「障害補償給付請求書」及びこれらに関する「調査復命書及び添付資料」等を作成します。
また、被災者が通院した病院のレセプトも独自に収集したうえで、検討の資料にしています。

 これらの資料は、保有個人情報開示請求をすることで、被災者の方でも入手することができます。逆に言えば、保有個人情報開示請求をしなければ、これらの資料は被災者の方の手元には届きません。

  では、保有個人情報開示請求はどのように行えばよいのでしょうか。

(2)開示方法

  まず、開示請求先は、被災者の方の労働災害を担当している労働基準監督署を管轄する労働局になります。愛知県内の労災であれば、愛知労働局になります。

  開示方法としては、所定の書式に開示請求したい文書を特定の上、手数料を支払えば、労働局が開示の有無を判断してくれます。

  被災された方であれば開示請求を行うことができますし、委任状をいただければ、弁護士が開示請求を行うこともできます。

 もし、労働基準監督署がどのような書類を作成しているのか分からないような場合には、事前に労働局へ問い合わせをすることで、労働局の方からどのような書類が作成されているのかを教えてもらうことができます。

(3)開示までに必要な期間

  労働局に開示請求をした場合、労働局は原則として30日以内に開示をするか否かの 決定を行います。
開示対象資料が膨大な量である場合には、追加で30日程かかる場合も ありますが、おおむね1か月半ぐらいで開示請求を行った人の手元に資料が届きます。

(4)開示資料の記載内容

  資料によって異なりますが、例えば、障害補償給付調査結果復命書には、労働基準監督署が診断書等の資料をどのように検討し、身体に残った障害が法令で定められた障害等級に該当するか否かについて、どのように判断したのかが記載されています。

また、仮に災害復命書が作成されていた場合には、仕事中または通勤による負傷や疾病が労働災害に当たるのか否かの判断をどのように行ったのか等が記載されています。

(5)小括

 このように、保有個人情報開示請求を行うことで、労働基準監督署の検討過程がわかるため、労働災害に遭われた際には、必ず開示請求をした方が良いと思います。

3 労働基準監督署の決定に不服がある場合

 例えば、労働基準監督署が決定した等級が法令の基準より低いのではないか等の不服がある場合、処分のあったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に労働基準監督署を管轄する都道府県労働局の労働災害補償保険審査官に対して審査請求をすることができます。3か月を過ぎますと、審査請求を行えなくなるため注意が必要です。

 もっとも、審査請求をするためには、労働基準監督署がどのように考え、判断したのかを知る必要があります。そのためには、保有個人情報開示請求が不可欠です。保有個人情報開示請求は、請求から開示まで最低でも1か月半程度かかるため、「一時金支給決定通知」等が届いた場合には、早急に開示手続きを行うことをおすすめします。

4 おわりに

 保有個人情報開示請求は個人でも行うことができますが、開示された資料の記載を読み込み、そこから労働基準監督署の決定内容が妥当なものなのかを検討するためには、専門的な知識が必要となります。

 弊所では、労働災害事件を多く扱っておりますので、労働災害に遭われた際には、お早めに弊所へご相談いただければと思います。