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現在、多くの企業では、従業員の副業・兼業を禁止、あるいは許可制をとる等の対応をされていると思われます。しかし実はいま、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日決定)を踏まえ、政府は副業、兼業の普及促進を図っており、事実上その拡大を後押ししています。
しかし、そういったことが世の中の主流となることにより、既存の法制度の枠組みの中では対応困難な問題が発生することが考えられます。その一つが「労災保険の給付」です。

例えば、以下のケースを考えてみましょう。
例1:A社とB社にて兼業就労をしている労働者が、B社での業務中に事故にあった。
このけがにより、休業のため療養している。
A:B社のみ。労災事故ははB社のみに起因したものだからです。
A:現行法の下では、B社のみの賃金をもとに計算された「給付基礎日額」により、休業補償給付が行われます。
ここで問題になるのはQ2.についてです。兼業・副業をする労働者は、2以上の事業者からの賃金全体をもって生活を営んでいるところ、B社で労災事故に遭ったことにより、B社だけでなく、A社における稼得所得をも失うこととなります。
しかし、現状においては、B社という一の事業所における稼得所得のみが補償されるのですから、被災労働者にとってみれば、A社におけるこれまでの賃金は評価されず、保険給付の目的である十分な所得補償とならない可能性があるのです。
例2:A社とB社にて兼業就労している労働者が、精神疾患に罹患し、療養および休業している。当該労働者の発症2ヶ月前における時間外・休日労働時間は、A社では1月あたり60時間、B社では70時間であり、過重労働により心身に支障をきたしていたという。
A:A社、B社単体での発症前2ヶ月における時間外・休日労働時間をみると、それぞれ1月に60時間および70時間という実態のため、各事業所にかかる労災認定を求める際には、当該傷病の業務起因性を主張することに困難が伴います。また、仮に通算した時間外・休日労働時間により業務起因性が認められた場合において、現行法ではA社、B社どちらの事業所による「給付基礎日額」が適用されるのか、疑問が残ります。
なお、心理的負荷による精神障害の(労災)認定基準は以下の通りです。
平成23年12月26日 基発1226第1号「 心理的負荷による精神障害の認定基準について」
例1、例2でのケーススタディーからわかるとおり、副業・兼業の国をあげての推進は、ある側面において労働者にとってメリットがあることも事実かもしれませんが、ひとたび労災事故が起きた場合には、事業主、労働者双方にとって様々な問題が顕在化する可能性が考えられます。
兼業・副業をしている場合の労災給付はどうなりますか -パート②-はこちら