兼業・副業をしている場合の労災給付はどうなりますか -パート②-

兼業・副業をする労働者の労災保険にかかる課題点について、パート①でお話致しました。

先般の「働き方改革」の項目の一つとして、厚生労働省は兼業・副業を推進しているとのことですが、それに伴い労災給付に関しても、複数の審議会、検討会によって積極的な改革案が議論されてきました。そしてついに2020年2月4日、複数就業者向け労災保険給付の創設を提起する「雇用保険等の一部を改正する法律案」が国会に提出されました。

この法律案の概要は以下のとおりです。

雇用保険等の一部を改正する法律案について

複数就業者等に関するセーフティネットの整備等 (労災保険法、雇用保険法、労働保険徴収法、労働施策総合推進法 )

複数就業者の労災保険給付について、複数就業先の賃金に基づく給付基礎日額の算定や給付の対象範囲の拡充等の見直しを行う。 【公布後6月を超えない範囲で政令で定める日】

複数就業者に係る労災保険給付等について(報告)(案)はこちら

② 複数の事業主に雇用される65歳以上の労働者について、雇用保険を適用する。 【令和4年1月施行】

③ 勤務日数が少ない者でも適切に雇用保険の給付を受けられるよう、被保険者期間の算入に当たり、日数だけでなく労働時間による基準も補完的に設定する。 【令和2年8月施行】

④ 大企業に対し、中途採用比率の公表を義務付ける。 【令和3年4月施行】

「雇用保険等の一部を改正する法律案」について詳しくはこちら

改正案概要

これら(案)の主旨を簡単にまとめますと、以下のような内容となります。

●被災労働者の稼得能力や遺族の被扶養利益の喪失の塡補を図る観点から、複数就業者の休業補償給付等については、非災害発生事業場の賃金額も加味して給付額を決定することが適当。

●複数就業者について、それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が見られないものの、複数就業先での業務上の負荷を総合・合算して評価することにより疾病等との間に因果関係が認められる場合、新たに労災保険給付を行うことが適当。

パート①でお伝えしたような課題に対し、第83回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会において、より具体的な審議が進んでいるということになります。

実際の労務管理上で、事業主に何が求められるか

サービス業、小売業、接客業、飲食業等においては、副業・兼業をされている労働者を雇用しているケースは、実態として、かなりの割合で存在すると考えられます。これまで労災事故が起きた場合に、被災事業所のみの給付基礎日額をもとに労災給付が行われていましたが、これを複数事業所の賃金合算額を基礎に算定される方向で、法改正案の検討が進んでいるということです。

このような法律が、近いうちに施行されることを念頭に、実際現場では、どのような対応が求められるのかを意識しなければなりません。

・政府の考えとして、働き方改革の一つとして、兼業・副業を推進している。

・多くの企業では、兼業・副業を禁止または許可制としているが、多様な働き方が求められる日本経済、人口構成、世界情勢を鑑み、就労のスタイルは多種多様化へと大きくシフトしており、この流れを止めることは出来ないと想定される。

・複数就業者の労働時間管理について、現行法においては2社以上の労働時間を通算し割増賃金の算定、時間外・休日労働の上限規制を受けることとなっている。しかし、その実態把握方法については、労働者の自己申告制を前提することが政府の議論のベースとなっており、その点実務上現実的ではなく批判論も多い。

・このようなことから、事業者としては「兼業・副業問題」は出来れば避けて通りたい課題である。

以上のような事実を踏まえ、労災事故が実際に我が社で起きた場合、それが自社を含めた複数就業者であったことがそのとき初めて明らかになることが考えられ、逆に自社の従業員が、ある日突然他社で業務災害に遭い、他社からその事実を告げられ、自社の勤務実態の開示を求められることも考えられます。

このような事態において、果たしてどのような対応をするのか想定し、対策しておく必要があります。また今後成立する見通しの改正法の内容を適切に把握し、万が一の事態には対処方法を誤らないことが重要です。

少なくとも、労働時間管理は、労災事故の有無、被災者が複数就業者であるか否かを問わず、労務管理の基本のきともいえるものです。事故が起こってから、対応が後手に回らないよう、自社においては少なくとも、労働時間管理を含めた就労の実態把握が適正にされていることが大前提です。

複数就労者の比率がますます高まることが予想されることから、政府としても法改正に向け、一歩前進しています。自社労働者の働き方についても、一度事業者として見直すきっかけとなるとよいと思います。

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