「健康保険と労災保険」

1 はじめに

労働災害の場合、病院で健康保険証を提示して治療を受けることはできません。
健康保険法第1条は、 「この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の 疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」 と規定しており、明確に労働災害の治療については、健康保険の対象外と定めています。

では、誤って健康保険で治療を受けた場合には、どうすればよいのでしょうか。

2 受診した病院へ相談

まずは、受診した病院の窓口へご相談ください。

受診から2~3週間以内であれば、病院内で労災保険への切り替えができる可能性があります。 労災保険で通院すれば、治療費の自己負担は生じないため、病院から健康保険の自己負担分相当額を返してもらうことができます。

なお、切り替えの際に必要な書類については、厚生労働省のホームページをご参照ください。

3 労働基準監督署へ相談

受診からしばらく経つと、病院はレセプト(診療報酬明細書)を作成するため、病院窓口で労災保険への切り替えができなくなります。その場合、まずは労働基準監督署へご相談ください。

具体的な手順としては、全国健康保険協会へ必要書類を送付し、いったん医療費全額を支払うことになります。その後、労働基準監督署へ医療費全額を請求することができます。

厚生労働省のホームページに詳細な手続きが記載されておりますので、ご参照ください。

4 全額負担の免除

最終的に医療費全額の返還を受けることができますが、いったんは自己負担が必要となることが被災労働者の方の負担になるという問題があります。
そこで、労働基準監督署へ相談し、一定の条件を満たす場合には、療養の費用を直接保険者へ振り込んでもらうという方法によって、自己負担なく労災保険への切り替えが可能になりました(H29.2.1 基補発0201第1)。 もっとも、この方法が使える場面は限定されており、全ての場合で適用可能なものではないことに注意が必要です。

5 おわりに

労災事案で健康保険を利用してしまった場合、できる限り早期に病院や同労基準監督署へ相談して、労災保険への切り替えが必要となります。

労災事案は、手続きが複雑なため、早期の段階で専門家への相談をおすすめいたします。