建設業の労災事故

建設業では、高所作業や重機を取り扱う作業が多く、他の業種に比べて労働災害が発生しやすい業種です。しかし、会社側が、業務上必要な安全対策を行っていないケースが多く見られます。

労働災害に遭い、会社側の安全配慮義務違反があれば、会社に対して、損害賠償請求をすることで、労災保険では補償されない損害に関して、賠償を受けられる場合があります。
労働災害に遭った場合に、適正な賠償を受けるためには、泣き寝入りすることなく、ご自身で動くことが重要です

労災イラスト

名古屋総合法律事務所では労働災害に強い弁護士が、迅速に対応いたします。
初回相談料は無料となっておりますので、諦めずにぜひご相談ください。

1. 建設業における労働災害の実態

最新の労働災害統計(厚生労働省発表のデータを引用)

厚生労働省が公表した最新の労働災害統計(令和5年)によると、業種別の労働災害発生状況は以下のとおりです。

1. 死亡者数
  • 建設業:223人(前年より58人・20.6%減)
  • 製造業:138人(前年より2人・1.4%減)
  • 陸上貨物運送事業:110人(前年より20人・22.2%増)
  • 商業:72人(前年より9人・11.1%減)
  • 全体の死亡者数は755人で、過去最少となりました。

2. 休業4日以上の死傷者数
  • 製造業:27,194人(前年より500人・1.9%増)
  • 商業:21,673人(前年より29人・0.1%減)
  • 保健衛生業:18,786人(前年より1,549人・9.0%増)
  • 陸上貨物運送事業:16,215人(前年より365人・2.2%減)
  • 全体の死傷者数は135,371人で、3年連続の増加となりました。

3. 事故の型別死傷者数
  • 転倒:36,058人(前年より763人・2.2%増)
  • 動作の反動・無理な動作:22,053人(前年より1,174人・5.6%増)
  • 墜落・転落:20,758人(前年より138人・0.7%増)
  • 特に「転倒」や「動作の反動・無理な動作」による災害が増加傾向にあります。

これらの統計から、業種や事故の型によって労働災害の発生状況が異なることがわかります。特に、建設業や製造業では引き続き安全対策の強化が求められます。

詳しくは厚生労働省ホームページをご覧ください。

建設業が、他業種と比較して、労働災害が多い理由

建設業が、他業種と比較して、労働災害が多い理由として、以下のようなものが挙げられます。

1.高所作業が多い(墜落・転落事故)

建設現場では、高所作業が日常的に発生します。特に、足場、鉄骨、屋根、橋梁工事などでは、作業中に高所から墜落したり、転落したりする事故により作業員が死傷する可能性があります。

2.大型重機・クレーン・ダンプカーなどの車両による事故が発生しやすい

建設現場では、大型重機・クレーン・ダンプカーなどの車両が稼働しており、大型重機やクレーンの作業に挟まれたり巻き込まれたり、荷物や土砂などが落下したりすることによって、作業員が死傷する可能性があります。

3.労働者の入れ替わりが激しく、安全教育の不足による事故や長時間労働・過労・熱中症などを原因とする事故が発生しやすい

建設業は、現場ごとに労働者が入れ替わることが多く、新人や経験の浅い作業員が多くなる傾向があり、安全教育が不足による労災事故の発生や経験不足なども影響して、長時間労働・過労・熱中症などを原因とする労災事故も発生しやすくなります。

4.天候の影響を受けやすく、事故の発生につながる可能性がある

建設業は雨や雪、強風の中でも外で作業を行うことがあり、それに起因した事故が起こりやすいです。

5.労働者の入れ替わりが激しく、安全教育の不足による事故や長時間労働・過労・熱中症などを原因とする事故が発生しやすい

建設業は、現場ごとに労働者が入れ替わることが多く、新人や経験の浅い作業員が多くなる傾向があり、安全教育が不足による労災事故の発生や経験不足なども影響して、長時間労働・過労・熱中症などを原因とする労災事故も発生しやすくなります。

6.作業環境が毎回異なり、安全な作業環境を維持するのが難しい

建設業は、オフィスや工場のような固定された作業環境ではなく、現場毎に作業環境が異なるため、オフィスや工場よりも安全な作業環境を維持するのが難しいです。

7.労働者の入れ替わりが激しく、安全教育の不足による事故や長時間労働・過労・熱中症などを原因とする事故が発生しやすい

建設業は、現場毎に労働者が入れ替わることが多く、新人や経験の浅い作業員が多くなる傾向があり、安全教育が不足による労災事故の発生や経験不足なども影響して、長時間労働・過労・熱中症などを原因とする労災事故も発生しやすくなります。

8.企業によって、安全対策の実施レベルに差がある

企業によって、安全対策の実施レベルには差があり、コスト削減のために安全対策が不十分なケースもあります。

事故の発生要因(転落・墜落、重機事故、挟まれ・巻き込まれ、過労など)

建設業における労働災害では、以下のような要因で発生することが多いです。

  • 高所作業による墜落・転落
  • 重機・クレーンによる挟まれ・巻き込まれ
  • 足元の悪さによる転倒
  • 資材の倒壊・崩壊
  • 感電事故

2. 代表的な建設業の労働災害と事例

企業の安全配慮義務違反が争点となった事例

一人親方からの損害賠償請求 大阪高裁平成20年7月30日判決
労判980号81頁(平成20年(ネ)第39号 損害賠償請求控訴事件 )

概要
一人親方のベテラン大工が、元請工務店の現場で2階から転落し、重傷を負った事例です。

判決
一審では、請求が棄却されましたが、控訴審では、外回りの足場を設置し、これが物理的に困難な場合には代わりに防網を張り、安全帯を使用させるなど墜落による危険を防止するための措置を講ずべき義務があったにもかかわらず、必要な措置が講じられていなかったことから、安全配慮義務違反が認められ、逸失利益や慰謝料の一部が認容されました(過失相殺は8割)。

認容額
約658万円

孫請業者の労働者が死亡した事例 福岡高裁那覇支部平成19年5月17日判決
労判 945号24頁(平成18年(ネ)第131号 労災損害賠償請求控事件)

概要
孫請業者の労働者が、工事現場で鉄板と土壁面との間に挟まれて死亡した事例です。

判決
一審では、元請業者の責任は否定されましたが、控訴審では、現場代理人を通じて、間接・直接に指揮監督される関係にあったと認めるのが相当であるから、元請会社が信義則及び条理上、孫請会社の労働者に対してもその安全配慮義務を負っていたと判断され、元請会社に対して、損害賠償が命じられました(過失割合は3割)。

認容額
合計約4,341万円

企業と労働者の過失割合が争点となった事例

機械の点検作業中の事故 神戸地裁昭和50年5月20日判決
判時799号74頁(昭和49年(ワ)第67号 損害賠償請求事件)

概要
点検・修理経験のない労働者に印刷機の点検・修理を行わせる際に、本来は電源を切って作業させるべきところ、印刷機の回転を遅くした状態で点検・修理を命じて作業をさせた結果、印刷機のローラーに両手を巻き込まれ、右手の指をすべて失うなどの重傷を負った事例です。

判決
裁判所は、会社側の責任を認めたうえで、労働者も印刷機を作動させながらこれに触れることは危険であることを了知していながら、回転を遅くしたのみで触れたことに不注意があったことを指摘し、労働者に30%の過失があることを認定しました。

これらの事例から、労働災害における過失割合は、企業の安全管理体制や労働者の行動など、具体的な状況を総合的に考慮して判断されることがわかります。企業は適切な安全対策を講じるとともに、労働者も安全手順を遵守することが求められます。

3. 労働災害が発生した際の対応と労災申請

労災が発生した場合の企業・労働者の対応フロー

項目 企業の対応 労働者の対応
事故発生直後 負傷者の救護・二次災害の防止 救急対応・応急処置・会社へ報告
労基署への報告 死傷病報告の提出 必要なら労基署に相談
労災保険の手続き 労災申請のサポート 労災申請(会社が協力しない場合は直接申請)
再発防止策 事故調査・安全対策の強化 安全管理の問題を会社に報告
被災者対応 被災者・遺族への説明と補償対応 会社の対応が不適切なら外部機関へ相談

労災保険の適用範囲(治療費・休業補償・障害補償)

労災保険の適用範囲は以下のとおりです。

項目 内容
適用される労働者 正社員、契約社員、日雇労働者、外国人技能実習生、派遣社員など
適用される事故 業務中の事故(転落・挟まれ・中毒など)、通勤中の事故など
適用外のケース 事業主(特別加入なし)、独立請負業者(特別加入なし)、私的行動中の事故
支給される給付 療養補償、休業補償、傷病補償、障害補償、遺族補償、葬祭料、介護補償など

労災保険では、休業補償や治療費などの補償のみが行われるため、慰謝料などについては補償されません。会社側の安全対策などが不足していたために発生した事故ということが証明できれば、会社側に損害賠償請求できる可能性があります。

4. 労働災害について弁護士に相談するメリット

  • 企業の安全配慮義務違反の追求
    • 企業は、労働者に対して安全配慮義務(労働契約法第5条)を負っています。
    • 企業による適切な安全対策が講じられていなかった場合(足場の設置不備、転落防止策無し等)や、労働者の教育・指導が不足していた場合(危険作業での事前説明無し等)などには、発生してしまった労働災害に対して、企業の責任を追及することができます。
    • 弁護士が関与することで、より適正な賠償を求めることが可能です。
  • 過失割合に争いがある場合も徹底対応
    • 労働災害において、企業側の過失と労働者側の過失の割合が争点となることが多いです。
    • 労働災害に強い弁護士に依頼することで、徹底的に証拠を収集し、過失相殺をできるだけ有利に進めることが可能です。
  • 後遺障害認定もサポート
    • 労災事故で障害が残ってしまった場合、後遺障害認定の等級に応じて、賠償金額は大きく異なります。後遺障害に詳しい弁護士に依頼することで、適正な等級認定、適正な賠償額を受けることが可能です。
  • 裁判に対応
    • 示談交渉が難航する場合も、弁護士に依頼すれば、裁判手続をスムーズに進めることが可能です。
  • 精神的負担の軽減
    • 怪我を負われた中で、やり取りをご自身で行うのは、肉体的負担だけではなく、精神的負担も非常に大きくなります。
    • 弁護士に依頼することで、精神的な負担を抑え、治療に専念することが可能です。

5. 後悔しないために「早めに」ご相談ください。

不運にも労働災害に遭われたみなさまにとって、痛みが残る中、労災について会社側と交渉することは、容易なことではありません。

労災事故に遭ってしまい、会社側の対応に少しでも不安を感じたら、迷わず弁護士にご相談ください。

被害者の方が適正な補償を受けられるよう、全力を尽くします。