労災保険とは?

労災保険(労働者災害補償保険)とは、労働者が業務中において怪我や病気に見舞われた際に、労働者やその家族の生活を守るための制度です。

耳慣れた言葉ですが、実際どのような保険で、どのように請求したらよいかについては、なかなか周知されていないのが現状ではないでしょうか。

ここでは労災保険がどのようなものかご紹介していきます。

目次
  1. 労災保険の対象者
  2. 労災保険が適用される場合
  3. 労災保険の給付の種類
  4. 労災保険について知っておくべき注意点

労災保険の対象者

労災保険の対象者は労働者です。

労働者とは、正社員のことだけを指すわけではありません。
アルバイトやパートであっても、申請後その傷病が業務に起因するものであったと労働基準監督署長に認められた場合には労災保険から給付を受けられます。

労働者を一人でも雇っていれば労働保険の適用事業となるため、事業主は必ず労働保険に加入し、保険料を納付しなくてはなりません。

弁護士のポイント

会社の代表者や業務執行権を有する役員、フリーランスなど自営業の個人事業主など一部の場合は「労働者」ではないため、労災保険の「特別加入制度」を利用する必要があります。

特別加入制度につきましては、立場別の労働災害各ページにて詳しく解説しております。

加入には要件があり、申請すれば必ず加入できるというわけではありませんが、そちらを合わせてご覧になった上でご検討ください。

詳しくはこちら

労災保険が適用される場合

前述の通り、労災保険の対象となるにはその傷病が業務に起因するものであったという因果関係が必要になります。

業務災害(労働者が業務により負傷した等)の場合

事業場内における作業従事中の災害や出張中の災害などは、特段の事情がない限り、業務災害に当たるとされていますが、具体的には以下の有無によって判断されます。

  1. 業務遂行性(労働者が事業主の支配ないし管理下にあること)
  2. 業務起因性(業務に伴う危険が現実化したものと経験則上認められること)
業務災害が認められない例
  • 労働者が意図的に事故を発生させた場合
  • 休憩中に業務に関係なく(私的な行為が原因になって)事故が発生した場合
  • 天災地変により事故が発生した場合
  • 個人的な恨みなどから事故が発生した場合

簡単に言えば、事故の原因となった行為が会社の管理下の場所で発生しているか、業務において必要な行為だったかが重要な点となるということです。

業務において必要な行為とは下記が具体例として挙げられます。

  • トイレなどの生理的行為
  • 指示を受けて作業した、通常業務とは異なる行為
  • 業務の準備や後始末

ただし、状況によって判断が難しい場合もございますので、お悩みの場合は弁護士へ相談されることを検討してください。

通勤災害(労働者が通勤により負傷した等)の場合

ここでいう「通勤」とは以下の区間を労働者が合理的な経路、および方法で仕事のために移動した場合のことを指します。

  1. 住居と就業の場所との間の往復
  2. 就業の場所から他の就業の場所への移動
  3. 単身赴任先と帰省先住居との間の移動

移動の経路から外れてしまった場合には、それ以降の移動を含めて「通勤」とみなされないことになります。

ただし、経路から外れた理由が日常生活上必要な行為(日用品の購入や病院の受診など)だった場合には、経路から外れていた時間を除き、その後の経路は「通勤」とみなされます。

裁判例も含めた詳しい解説はこちら

弁護士のポイント

事例によってはその原因が仕事であったと証明することが難しいこともあるでしょう。

もし、労災が認定されずその決定に不服がある場合には、「労災保険審査請求制度」を利用したり、(最終的な手段として)処分取消請求訴訟により処分の取り消しを求めて争うことができます。

 

労災保険の給付の種類

労災保険の補償内容は大きく分けると8種類となります。
労働災害が認められれば状況に応じて下記の労災保険の給付が受けられます。

それぞれの給付については各ページにてより詳しい解説を掲載しておりますので合わせてご確認ください。

また、労災保険手続きの基本についてはこちらからご確認いただけます。

労働災害による傷病等を負った場合

療養補償給付/療養給付

治療費、入院料、移送費(通院費)など、通常療養のために必要な費用が支給されます。

休業補償給付/休業給付

傷病によって休業した日が4日以上続いた場合に、「実際に休業した日数×給付基礎日額の60%(※)」が支給されます。
(※)休業特別支給金の場合は、休業日数×給付基礎日額の20%が加算されます。

傷病補償給付/傷病給付

療養開始後1年6か月を経過した日において治っていない場合で傷病等級に該当する場合に、休業給付に代わって支給されます。

介護補償給付/介護給付

障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金 の受給者のうち、障害等級・傷病等級が第1級の方 (すべて)と第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している方が、現に介護を受けている場合に支給されます。

治ゆ(症状固定*)した場合

障害補償給付/障害給付

後遺障害が残った場合に支給されます。後遺障害の等級によって支給される金額は異なります。

労働災害による傷病等で死亡した場合

遺族補償給付/遺族給付

労働者の遺族に対し、年金または一時金が支給されます。

葬祭料/葬祭給付

葬祭を行う遺族などに対して葬儀を行うための費用として支給されます。

*治ゆ(症状固定)とは

労災保険における「治ゆ」とは、傷病の症状が健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうものではなく、傷病の症状が安定し、これ以上治療を行っても医療効果が期待できないと判断された状態(症状固定の状態)のことをいいます。

症状が残存していてもその傷病の症状の回復・改善が期待できなければ「医療効果が期待できない」ものとして「治ゆ」(症状固定)として扱われます。

二次健康診断等給付

健康診断(一次健康診断)において、異常所見があった場合に、脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断を無料で受けることができる制度です。

弁護士のポイント:補償給付と給付の名称の違いについて

補償給付と給付の名称の違いについて:「〇〇補償給付」という名称は業務災害に該当する場合に適用され、「〇〇給付」という名称は通勤災害の場合に適用されますが、名称の違いだけで補償の内容は変わらないのでご安心ください。

労災保険について知っておきべき注意点

1.健康保険証を使用して受診してしまった場合

業務または通勤中の怪我には健康保険を使用することはできません。

これは法律で定められていることですので、一度誤って健康保険証を使用してしまった場合には手続きが必要です。

まずは、受診した病院に健康保険から労災保険に切り替えが可能か確認してください。

  • 切り替えができない場合
    一旦、医療費全額を自己負担して労災保険を請求する。(※自己負担困難な場合は労働基準監督署へお問い合わせください)
  • 切り替えができる場合
    健康保険で負担した分の金額が病院から返還され、切り替え手続きをする

2.公的年金との併給

労働災害が原因の傷病で障害(厚生・国民)年金を受給する場合には、労災保険の支給額が減額調整されます。

減額には決められた調整率によって割り出されますが、総受給額が障害年金請求前よりも下がるということはありませんのでご安心ください。

3.労働災害発生時の病院の選び方

労働災害に見舞われた際の治療は、可能であれば「労災指定病院」または「労災病院」で行うのがよいでしょう。
費用の負担なく、病院への書類提出を行えば労災保険から支払われるからです。

その他一般の病院への通院ですと、医療費の全額(健康保険が使えないため10割)を一度立て替えなければならず、その後の請求作業にはやや手間がかかります。

病院にかかる前に、電話で労災保険の治療が受けられるかどうか確認するのがオススメです。病院をお探しの際には、一度ご検討ください。

弁護士のポイント

「労災指定病院」と「労災病院」は混同しやすいですが、根本は違います。

ただし、どちらも労働災害の対応に重きを置いていると考えていただければ問題ございません。

4.労働保険請求の時効

労災保険の請求には2〜5年の時効があります。

それぞれ請求権の発生や時効の長さに異なりますので、該当するかお悩みの際はお早めに専門家へご相談ください。