重機・建設機械による事故と典型的後遺障害

弁護士 田村 淳

1.はじめに

建設現場ではクレーン・ショベルカー・フォークリフトなどの重機・建設機械との接触事故も多く発生し、被災者に重度の外傷を負わせることがあります。たとえば、作業員がバックホウやトラックに巻き込まれたり、クレーンの旋回範囲に巻き込まれたりすると、手足の切断や脊柱の損傷など重大な障害につながりかねません。

2.手足の切断・粉砕骨折による後遺障害と補償

重機との衝突や挟まれ事故では、手指や手足の切断、あるいは開放骨折・粉砕骨折による手足の形態機能障害といった重大な外傷が発生します。こうした四肢の喪失・変形障害が残った場合、その後遺障害等級は一般に5級~7級前後の重い等級に認定されます(例:足関節以上での下肢切断は5級、前腕喪失は5級、片手の指の大部分を失った場合は7級など)。労災保険では該当等級に応じた障害補償給付が行われ、また民事上の損害賠償でも逸失利益計算の基礎となります。

機能喪失(例:関節の硬直や運動麻痺)が残存すれば後遺障害として認定される可能性がありますが、そのためには前提となる原因となる画像所見があるかという点や、機能障害のある部位の測定がきちんとなされているかという点が大事です。

中には、機能障害の症状が出ているにもかかわらず、MRI画像をきちんととっていないケースや、計測がされていないケースがあります。

骨折部位に適合したプレート固定やリハビリを行っても可動域制限が残る場合は、医師に関節可動域制限について詳細に評価してもらい、適正な等級が認定されるよう留意します。また、労災の等級認定や損害賠償交渉の局面では、失った手足の機能について会社側と被災者側で評価が分かれることがあるため、医学的根拠に基づく主張立証が重要です。

※労災において後遺障害等級が認定された場合でも、裁判所は労基署の判断に拘束されないため、立証不十分の場合には労災の認定よりも低い等級又は認定がされない可能性もあります。

3.神経損傷による麻痺・運動障害(完全切断に至らないケース)

重機事故で四肢の切断には至らなくとも、神経の圧迫や断裂によって部分的な麻痺・しびれ・運動障害が後遺症として残ることも多々あります。例えば、脚部が重機に轢過されて腓骨骨折した結果、足首から下が垂れ下がってしまう「足下垂(ドロップフット)」や、腕神経叢の損傷による上肢の麻痺が生じるケースです。このような神経症状による機能障害も労災の後遺障害等級に該当し、障害の範囲・程度に応じて等級が認定されます。

足関節が曲がらなくなったり腕が上がらなくなった場合には、8級から12級の後遺障害が認定される可能性があります。

神経症状や機能制限は主観的な訴えだけでは等級が認められないため、整形外科医や神経内科医の診断書に反射検査・筋電図検査や機能制限の測定等の他覚所見を記載してもらうことがポイントです。また、事故直後からリハビリ記録や神経学的検査結果を蓄積し、「事故による神経損傷で労働能力が低下した」と客観的に証明することで、適切な後遺障害を確保しやすくなります。

4.機械事故と会社の安全配慮義務違反(ガード未設置・操作ミス誘発要因)

建設機械や重機による事故では、その危険性を抑止するために会社が取るべき安全措置が怠られていなかったか検討されます。たとえば、車両系建設機械の作業半径内に立ち入り禁止措置を講じていなかった、誘導員を配置していなかった、バック警報音が作動しないままバックさせていた、などの事情があれば安全配慮義務違反と判断される余地があります。製造業等に共通しますが、労働安全衛生規則101条は機械の歯車やベルト等の危険部分に覆い・囲い等の防護措置を設置すべき旨を定めており、もし重機の危険箇所にガードがなかったり、非常停止装置が機能していなかったりした場合には会社の法令違反が問われます。実際に、「運転停止後も惰性回転するロール機に安全カバーを設置していなかったため指を挟まれ切断した」「機械内に手が届かないような格子状ガードがなく腕が巻き込まれた」等の事故では、安全装置未設置が原因として会社の責任が認められています。このように、重機・機械事故で労働者が負傷した場合、会社が講ずべき安全設備・教育を怠っていなかったかを精査し、違反があれば損害賠償請求時に主張していく必要があります。

5.飛来・落下物事故による後遺障害と会社責任

建設作業中には、上方からの落下物(工具や建設資材の落下)や飛来物(クレーンからの吊り荷の揺れによる接触、粉砕作業中の破片の飛散など)による労災事故も発生します。これらは被災者の頭部や身体に直撃して重傷を負わせる危険があり、場合によっては視力障害や聴力障害などの後遺障害につながります。

6.頭部・眼の外傷による視力・聴力障害の後遺症

高所から落下したハンマーや資材が作業員の頭部を直撃したり、飛来してきた金属片が眼に当たったりすると、失明難聴等の感覚器官の障害が残る恐れがあります。例えば、頭部打撃により眼神経が損傷して片眼が見えなくなった、あるいは側頭骨骨折により片耳の聴力を失ったケースでは、労災の後遺障害等級は障害の重さに応じて2級~13級程度まで幅広く認定され得ます(両眼失明なら1級、片眼失明+他眼視力0.02以下で2級、片耳失聴で9級など)。視力・聴力の障害は、その程度を客観的に測定できるため、万国式視力表による視力検査結果オージオメーターによる聴力検査結果が後遺障害診断書に記載されることになります。複視などの場合と同様に単なる自覚症状だけでは認定されないため、目の障害であれば眼科医、耳の障害であれば耳鼻科医の適切な検査・所見を揃えて申請することです。こうした感覚障害は被災労働者の生活の質を大きく損ねるため、慰謝料・逸失利益の額も高額になりがちです。適正な補償を得るには、障害の内容を正確に伝えるとともに、必要に応じて弁護士のサポートを受けて後遺障害等級認定や損害賠償額について争っていくことが求められます。

7.落下物事故における安全管理義務と企業の責任追及

安全衛生法及び規則上、一定規模以上の移動式クレーンに従事させる場合には、事業者は特別教育をすべきことが定められています。また、重機等を用いた工事を行う場合には、あらかじめ作業計画を定め、かつ、当該作業計画により作業をしなければなりません。また、この作業計画は関係者に周知しなければならないとされています。

したがって、このような特別教育を怠っているケースや作業計画の策定とそれに基づく作業に不備がある場合等の場合には、会社側の安全配慮義務違反が認められる可能性が高いといえます。

例えば、「クレーンで吊り上げた資材を固定・結束する手順を怠ったために荷崩れが起きた」「高所からの落下物防止ネットを設置していなかった」「作業エリア下に作業員を立ち入らせていた」等の事情です。

このように、会社側の危険を防止する義務の違反が認定されれば、被災者は労災保険給付では補填しきれない慰謝料や逸失利益についても民事賠償を請求できます。労災保険では慰謝料は支払われないため、きちんと損害賠償請求をすることが大事です。

落下物事故の被害に遭った労働者は泣き寝入りせず、専門家に相談して会社の責任を追及すべきでしょう。事故後は現場写真の保存や労基署の調査報告書の入手に努め、会社側の安全管理上の過失を裏付ける証拠を確保しておくことが大切です。