重機事故の労災における安全配慮義務とは何か──現場運用から見る責任の判断基準

弁護士 田村 淳

はじめに

重機による労災事故が起きた後、会社からは「労災で手続を進める」「安全教育はしていた」「現場はルールどおりだった」との説明で終始し、会社側の責任があやふやにされることがあります。重機事故の労災で会社側に損害賠償請求を検討する場合、現場の安全配慮がどの水準まで求められていたのか、そして実際に何が行われていたのかが問題になります。誘導員の配置、作業半径内の立入管理、警報や安全装置の点検整備、作業計画と周知、経験不足への指導などは、実態が伴っていなければ意味がありません。さらに、建設現場などで元請や他社が関与している場合、請求の相手方をどうするかも重要な点です。

以下では、これらの問題について解説します。

本記事のポイント:

・重機事故における安全配慮義務は現場の運用実態が重要です。

・会社だけでなく元請や他社が関与すると、「現場支配・指揮監督」により責任主体が異なる可能性があります。

・事故後の説明や体制整備ではなく、事故時点で危険を防ぐ仕組みが機能していたかが判断の中心です。

1)重機事故の労災で問題になる安全配慮義務の中身

重機作業は「危険性が高い作業」であることを前提に安全配慮に対する基準が高い

重機を用いた作業は、動力で駆動する機械が労働者の近くで稼働する点に特徴があり、事故が生じた場合に重傷事故に派生しやすい作業類型に位置づけられます。このため、安全配慮義務の水準は、通常の作業を前提とした一般的な注意義務よりも高く設定されます。
労働契約法5条が定める安全配慮義務は、形式的なルール整備にとどまらず、生命・身体に及ぶ危険を具体的に想定した措置を講じることを前提としています。重機作業では、危険の予見可能性が高いこと自体が前提となることが多く、危険が現実化しない状態を作業全体として構築できていたかが、重要となります。

重機事故では作業計画・立入管理・誘導体制の欠如が直接争点になりやすい

重機事故は、オペレーターが注意を尽くしていたか否かだけではありません。現場として作業計画が具体化され、重機の稼働範囲や危険区域への立入が管理され、誘導や合図が作業手順に組み込まれていた、実際の運用が重要です。労働安全衛生法上も、機械等による危険防止のための措置(安衛法20条)や、動力で駆動される機械の危険な部分への覆い・囲い等(安衛則25条)、安全装置等の点検整備(安衛則28条)といった法的な義務が課されています。

※労働安全衛生法第20条は、事業者が機械、器具、その他の設備による危険を防止するために必要な措置を講じることを義務付けています。

※労働安全衛生規則第25条は、動力により駆動される機械の危険な部分に対する防護措置として、覆いや囲いの設置などを具体的に定めていますこれは安衛法第43条(動力により駆動される機械の防護)の具体的な内容を定めたものです。

※労働安全衛生規則第28条は、法令に基づき設けられた覆いや囲い、安全装置等が有効な状態で使用されるよう、事業者に点検および整備を行うことを義務付けています。

安全装置や警報が「付いていたか」ではなく「機能していたか」が問われる

装置や警報は「備え付けしていた」と主張されやすい一方で、より重要な点は、稼働状況と点検整備の実態です。安衛則28条が安全装置等の点検整備を前提にしている以上、事故時点で作動する状態にあったか、停止や故障が放置されていなかったかが重要になります。形式だけ整っていても、現場で危険が除去されていなければ、安全配慮として不十分であることは明らかであり、会社側の責任は肯定されうるのです。

資格・特別教育を受けさせていたかが安全配慮義務違反の判断材料になる

重機を扱う業務では、機械そのものの危険性に加え、操作方法や作業環境を誤れば重大事故につながることが前提になります。そのため、労働安全衛生法上、危険または有害な業務に従事する労働者に対する特別教育の実施や、作業主任者の選任と指揮体制の構築が重要な意味を持ちます。

①危険または有害な業務に対する特別教育

事業者は、危険または有害な業務に労働者を従事させる場合、その業務に関する安全衛生のための「特別教育」を実施しなければなりません(安衛法59条3項)。
この特別教育が必要な危険有害業務は、安衛法規則36条に具体的に定められており、プレス機械の操作、クレーンの運転、足場の組立て、チェーンソーによる伐木作業等です。
教育科目、範囲、時間数等は「安全衛生特別教育規程」で詳細に定められており、これを満たさない場合は教育が「未実施」とみなされることがあります。
また、事業者は特別教育の記録を作成し、3年間保存する義務があります。この特別教育の実施を怠った場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

②作業主任者の選任と指揮体制

事業者は、高圧室内作業やコンクリート造の工作物の解体作業など、労働災害を防止するための管理が特に必要な作業については、有資格者の中から「作業主任者」を選任し、労働者の指揮などを行わせなければなりません(安衛法14条)。作業主任者になるには、都道府県労働局長の免許を受けるか、登録教習機関が行う技能講習を修了する必要があります。作業主任者の主な職務は、作業に従事する労働者の指揮、使用する機械等の点検、安全装置の使用状況の監視、異常発生時の応急措置などです。事業者は、選任した作業主任者の氏名とその職務内容を、作業場の見やすい場所に掲示するなどして関係労働者に周知しなければなりません。作業主任者を選任しなかったり、必要な職務を行わせなかったりした場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

経験不足・配置判断ミスも重機事故では安全配慮義務違反として評価されやすい

重機作業は、操作技術だけでなく、周囲の状況把握や危険の予測を含めた経験の差が、事故の発生可能性に直結します。そのため、作業者の経験や習熟度を把握しながら、適切な配置や監督を行うこと自体が、安全配慮義務の内容に含まれます。経験不足が明らかな作業者に対し、十分な指導や補助体制を整えないまま重機作業に従事させた場合、事故が起きると単なる本人の不注意では処理されにくくなります。
マニュアルが存在していたと主張されることがありますが、危険を回避する具体的な手順が共有され、作業中にそれが守られているか否かを確認する体制があったかがより大事です。監督者が現場にいながら、経験不足や危険な動作を認識していたにもかかわらず是正しなかった事情は、配置判断や監督判断の誤りとして、安全配慮義務違反を基礎づける要素になります。

2)重機事故の安全配慮義務違反をどのように請求につなげるか

会社に対する請求は安全配慮義務違反の立証により決まる

労災給付が支給されるかどうかは、業務起因性の判断に基づく行政上の問題であり、それ自体が会社の民事責任を左右するものではありません。会社に対する損害賠償請求では、労働契約法5条に基づく安全配慮義務に違反する行為や管理の欠落があったか、そしてそれが事故結果とどのようにつながっているかが中心になります。
重機事故では、機械の危険部分への覆い・囲いといった物的措置、安全装置や警報装置の点検整備、作業内容に即した安全教育や指示体制が、問題の中心になります。会社側の説明が「安全教育はしていた」「規則は整っていた」といった抽象的なものにとどまる場合でも、実際の現場運用として、どの措置が不足していたのか、どこで危険が放置されていたのか具体的に指摘・立証する必要があります。

元請への請求は、現場支配と重機管理への関与の有無が重要

元請に対して責任を問えるかどうかは、下請労働者との間に雇用契約があるかでは決まりません。重要な点は、元請が現場においてどの程度の支配や関与を及ぼしていたかという点です。最一小判平成3年4月11日(三菱重工業神戸造船所事件)は、下請労働者が元請の管理する設備や工具を使用し、事実上元請の指揮監督を受け、作業内容も元請の労働者とほぼ同一であった事情を踏まえ、元請の労働者に対する信義則上の安全配慮義務を肯定しました。
一方で、元請が下請労働者に対して具体的な指揮監督を行っていないと評価される場合には、安全配慮義務違反が否定される方向に働きます。
このように、元請の責任は一律に肯定されるものではなく、現場支配の実態に応じて結論が分かれます。

使用者責任等の他の責任追及について

重機事故では、他社に所属する重機オペレーターや作業員が関与することも少なくありません。このような場合、従業員の過失が認められれば、民法715条に基づく使用者責任として、その使用者である会社に損害賠償責任が及ぶ可能性があります。複数の従業員の過失が競合する場面でも、いずれか一人の過失が認定されれば足りる場合があります。
さらに、事故原因が操作ミスではなく、重機自体の設計・構造上の欠陥や、安全装置の不備、保守管理の不十分さに存する場合には、設計製造者や保守管理業者の責任が問題になり得ます。

会社側が主張する「本人の不注意」が原因との主張について

重機事故では、会社側が被災者本人の行動に着目し、「不注意」「判断ミス」「ルール逸脱」にあり、会社側に責任がないと主張することがあります。本人の行動が争点になる場面があること自体は否定できませんが、それによって直ちに会社の責任が消えるわけではありません。
誘導体制が不十分で、重機の作業半径内への立入が実効的に管理されていない現場では、結果として人が近づいてしまう構造自体が問題になります。このような状況では、個人責任として片づけることはできず、作業計画や立入管理、監督体制の欠如によって会社側の責任が肯定されます。さらに、作業内容に即した教育や具体的な指示が不足していた場合には、危険を回避できる前提条件が整えられていなかったとして、安全配慮義務違反となり得ます。
なお、本人の行動に不注意があった場合には過失相殺として損害が減額する事情となります。

会社側が事故後の安全対策を行った場合

事故後に新たなルールを設けた、掲示を増やした、安全装置を更新したといった説明が会社側からされた場合、再発防止の観点では意味を持ちますが、そもそもの安全対策が不十分であった会社側の責任を否定する事情とはなりません。安全配慮義務の判断は、事故が起きる前の時点で、危険を予見し、それを回避する措置が講じられていたかが重要です。
むしろ、後から整えられた対策は、事故当時に危険を防ぐ仕組みが十分でなかったことを示す事情として扱われ得ることになります。

最後に

重機事故の労災は、制度の枠組みを知っているだけでは整理が進みにくく、現場の実態をどう評価するかで結論が大きく変わる分野です。誰が作業を指揮し、どの範囲を管理し、危険を遮断する仕組みが実際に機能していたかを順に組み立てることで、争点になる部分と、早い段階で整理できる部分が見えてきます。
会社・元請・他社が関与する現場では、請求の相手方(責任主体)の問題もあり、より問題が複雑化します。
以上説明したような事故に遭われた場合には、早期に弁護士へご相談ください。