1 転落事故の場合

 

(1)はじめに

転落事故を防止するため、安全衛生法規則(安衛則)は様々な規定を置いています。

  
安衛則518条 1項
安衛則518条1項
「事業者は、高さが2メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行う場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。」
同条2項
同条2項
「事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。」
 
521条 1項
521条1項
「労働者に安全帯等を使用させるときは、安全帯等を安全に取り付けるための設備等を設けなければならない。」
同条2項
同条2項
「安全帯等及びその取付け設備等の異常の有無について、随時点検しなければならない。」

使用者等が、かかる関係法令に違反したため、労働者が転落により怪我をした場合には、会社に対し、損害賠償請求できることがあります。

 

(2)裁判例の紹介

東京高判平成18年5月17日(判タ1241号119頁)

事案の概要 屋根塗装工事のため高所作業をしていた請負人(被災労働者・A)が高所から転落し負傷した事案。
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判決要旨 裁判所は、本件契約は、その実質は、労務の提供という色彩の強い契約であるとして、元請人の請負人に対する安全配慮義務を認めた上で、元請人が安衛則521条1項にいう「安全帯等を安全に取り付けるための設備等を設けた」とはいえないとして、損害賠償請求を認めました。

東京地判平成20年2月13日(判時2004号110頁)

事案の概要 派遣労働者(被災労働者・A)が、派遣先の工場で、ライン上を流れる缶の蓋を検査する作業(「本件検蓋作業」)中、同作業台から転落して頭部を強打して死亡した事案。
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判決要旨 裁判所は、まず、「本件検蓋作業は、約89㎝の高さのある作業台の上で、40㎝四方の足場に立ったまま、約8時間にわたり作業を行うもので、しかも、従業員から暑さに対する対策を求められるほどの高温の中での作業であったというのであるから、本件検蓋作業を行うに際して、熱中症や体調不良などの異常が生じた場合に、作業者が転落する可能性が十分考えられたというべきである。」と具体的な作業状況や労働環境を認定しました。
そして、「このような状況下においては、会社は安全配慮義務の具体的内容として、転落の危険を避けるために、転落防止の措置が施された転落の危険のない適切な作業台を使用すべき義務を負っていたと解するのが相当であり、転落防止の措置が施されていない本件作業台をAに使用させたというのであるから、上記安全配慮義務に違反したものというべきである。」として、損害賠償請求を認めました。

大阪高判平成20年7月30日(労判980号81頁)

事案の概要 30年以上の経験を有する大工(被災労働者・A)が戸建て住宅の新築工事中に、2階から転落して負傷した事案。
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判決要旨 裁判所は、工務店には、「安全配慮義務の履行として、外回りの足場を設置し、これが物理的に困難な場合には代わりに防網を張り、安全帯を使用させるなど墜落による危険を防止するための措置を講ずべき義務」があり、その危険防止措置を怠っていたとして、損害賠償請求を認めました。
なお、Aにも相応の道具選択と技量が期待されていたとして、8割の過失が認定されました。

2 落下物に当たって怪我をした場合

(1)はじめに

落下物が当たって怪我をしたという災害は頻繫に発生する労働災害の1つです。
このタイプの労災事故は、建設業や製造業、運送業などの現場でよく見られるもので、当たりどころによっては重篤な結果を招くことも少なくありません。
労災保険を利用することで、相応の補償を受けることはできますが、会社の安全防止策が不十分であった場合には、会社に対し、損害賠償請求できることがあります。

(2)裁判例の紹介

千葉地判平成元年3月24日

事案の概要 運転資格のない者(被災労働者・A)がクレーンを操作中、吊り下げていた物が落下して右足を挟まれて負傷した事案。
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判決要旨 裁判所は、使用者らは、本件クレーンの運転資格がないのにAがこれを操作することを黙認していた点、本件クレーンの滑走による危険を防止するために走行ブレーキを取り付けなければならないのにこれをしなかった点において、安全配慮義務違反があるとして、損害賠償請求を認めました。
なお、Aにも操作上のミスがあったとして、3割の過失が認定されました。

横浜地小田原支判平成6年9月27日

事案の概要 クレーンを用いて原木をトラックに積込み作業中、ワイヤーロープが解けて落下した原木に当たり頸部を負傷した事案。
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判決要旨 裁判所は、使用者らは、玉掛けに使用してはならないワイヤーロープを使用し、安全荷重を上回る原木の吊り下げ作業を行わせたため、ワイヤーロープが原木の荷重に耐えきれずに解け、右事故を発生させたのであるから、安全配慮義務違反があるとして、損害賠償請求を認めました。

3 機械に巻き込まれて怪我をした場合

(1)はじめに

機械を操作して行う作業には危険が伴うため、使用者等は事故発生の危険を防止する措置を講じる必要があります(安衛法20条)。
例えば、動力により駆動される機械等については、危険を有する部分に防護のための措置を講じる義務(安衛法43条以下)があり、覆いや囲いの設置等が指定されています(安衛則25条各号)。
また、安全衛生法規則においては、関係法令によって設けた安全装置等の点検整備を義務づけています(安衛則28条)。
使用者等が、かかる関係法令に違反したため、労働者が機械に巻き込まれて怪我をした場合には、会社に対し、損害賠償請求できることがあります。

(2)裁判例の紹介

東京地判平成27年4月27日

事案の概要 工場内のプレス機械に手を巻き込まれ、4指切断の怪我を負った事案。
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判決要旨 裁判所は、安衛法20条1号における機械等の危険防止に必要な措置を講じる義務や、プレス機械等の危険防止について規定された安衛法131条1項所定の措置を指摘し、「かかる措置は、労働者の身体の安全を確保することを目的とするものであり、これを怠った場合には、不法行為法上の注意義務違反及び安全配慮義務違反を構成するものと解される」として、損害賠償請求を認めました。

広島高岡山支判平成23年2月24日

事案の概要 作業中のエレベーター事故により労働者が死亡した事案。
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判決要旨 裁判所は、「本件エレベーターは、労働安全衛生法において、事業者が機械等による危険の防止措置を義務付けられているエレベーターであり、搬器及び昇降路のすべての出入口が閉じられていない場合には、搬器を昇降させることができない装置を備えなければならなかった(同法20条1号、42条、安衛則27条等)」ところ、本件事故は、危険防止措置をとらず、また安全教育や具体的指導・注意も行わずにエレベーターを使用し続けたために生じたものであるとして、損害賠償請求を認めました。

4 火傷を負った場合

(1)はじめに

仕事中に火傷を負った場合にも、業務災害として、労災保険が適用されることがあります。
また、火傷の原因が使用者らの安全配慮義務違反にある場合や火傷の症状がひどく後遺症が残ってしまった場合には、会社に対し、損害賠償請求できることがあります。

(2)裁判例の紹介

名古屋高判昭和58年12月26日

事案の概要 鉄スクラップの溶解業務に従事中、溶解液の飛沫が飛来し、労働者(被災労働者・A)が、左眼角膜火傷等の傷害を負った事案。
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判決要旨 裁判所は、まず、溶解作業においては鉄溶解液の飛沫発生は不可避な現象であり、使用者は、「同作業に従事する労働者に対し、右作業の危険性を説明し、防護具を支給し、これを着用するよう教育する義務があったと解するのが相当である。」としました。
そして、使用者は、Aに対し、入社時の基礎的安全教育を行い、保護具の支給もしていると認められるが、「仕事の慣れや保護具自体の不便さ等から、保護具の使用を怠っている労働者に対し、改めて危険性を説明し、保護具を確実に着用するよう指導するなど、経験者に対し再度安全教育を確実に行う必要があった。」としました。
すなわち、本件のような高度な危険が伴う作業にあたっては、使用者は、一般的な安全教育や保護具の支給をなすのみでは足りず、作業現場での保護具の着用等、具体的な指示・教育をもって労働者の安全に配慮すべき義務を負っているとして、損害賠償請求を認めました。
なお、Aにも3割の過失があったと認定されました。

5 薬物で怪我をした場合

(1)はじめに

化学技術の発達により、薬物による死傷事故も増加しています。
化学物質を取り扱う際には、通常の業務とは異なった配慮が必要であり、以下、使用者の安全配慮義務違反が認められた裁判例を紹介します。

(2)裁判例の紹介

東京地判平成30年7月2日

事案の概要 化学物質を取り扱う検査分析業務に従事していた労働者(被災労働者・A)が、有機溶剤中毒および化学物質過敏症に罹患した事案。
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判決要旨 裁判所は、事業者は、安衛法や安衛則および有機溶剤中毒予防規則(有機則)に基づいて局所排気装置等設置義務を負っていること、有機則等の規制の趣旨は、労働者の健康被害を防止する点にあること、有機溶剤の毒性は急性中毒や慢性中毒の形で人体に致命的に作用することがあることに照らせば、会社は、Aに対し、雇用契約上の安全配慮義務として、局所排気装置等設置義務や保護具支給義務を負っていたというべきであるとして、損害賠償請求を認めました。

大阪地判平成16年3月22日

事案の概要 廃油の収集、処理等を業とする会社の従業員であったAが、本社工場にある廃溶剤タンクの清掃作業中、タンク内部において、有機溶剤中毒により死亡した事案。
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判決要旨 裁判所は、安衛法などの規定に基づき、会社には、有機溶剤を取り扱う従業員に対し安全衛生教育を徹底し、有機溶剤による健康障害の発生を防止するために万全の安全管理体制を整えるなどの義務があり、本件タンクの清掃作業に関しては、その作業を行わせるにあたり、あらかじめ作業手順および注意事項を具体的かつ明確に定めて周知徹底し、日頃から教育・指導等を十分に行い、従業員に注意喚起するなどして、知識不足や慣れからくる不注意・過信等を原因とする事故を未然に防止すべき注意義務があり、これを怠ったとして、損害賠償請求を認めました。