海外出張中に事故に遭ったら、労災にできる?

更新日:令和4年03月30日

※こちらの記事は2022年03月30日までの情報を元に作成しています。執筆時点以降の事情変更により記事の内容が正確でなくなる可能性がございます。
引用しているウェブサイトについても同様にご注意ください。

ここでは、海外出張中に事故に遭った場合に、どんな補償が受けられるのか解説していきます。

目次

1. 海外出張と海外派遣の違い

2. 「海外出張」で受けられる補償

3. 「海外派遣」で受けられる補償

4. 裁判例

5. まずはご相談を

1.海外出張と海外派遣の違い

業務中のケガであればまず第一に労働保険を思い浮かべるかもしれませんが、この問題については、その出張が単なる「出張」なのか、海外「派遣」なのかにより異なります。

海外出張か海外派遣かの区別は、勤務実態により総合的に判断されます。

例えば、商談のために海外へ行ったという場合には海外「出張」に該当し、海外支店への転勤や海外の関連会社への出向であれば海外「派遣」に該当する可能性があります。

海外出張・・・単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する場合

海外派遣・・・海外の事業場に所属して、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する場合

主な判断基準は指揮系統が国内であるか国外であるかであり、滞在の期間の長短は関係しません。

2.「海外出張」で受けられる補償

海外出張と判断されれば、出張元となる事業場の労災保険による給付が受けられます。

労災保険給付の具体的内容はこちら

弁護士のポイント

労働災害にあたるかどうかは「業務遂行性(会社の管理下の場所で発生しているか)」と「業務起因性(業務において必要な行為だったか)」という2つのポイントから考えることとなります。

海外出張においてはその過程全般が会社の管理下であり、宿泊や食事などといった一見私的な行為と思えるものにおいても、業務において必要であったとの判断がされやすいです。

ただし、業務後の私的な観光中の事故など私的・恣意的行為・業務逸脱行為に生じた災害については業務災害とは認められませんのでご注意ください。

3.「海外派遣」で受けられる補償

海外派遣*の場合は、労災保険への「特別加入」をしていなければ労災保険給付を受けることができません。

*ここでいう海外派遣は、労働者派遣法23条4項において届出の必要となる海外派遣とは異なります。

労災保険の特別加入制度

海外派遣について労災保険の特別加入をするためには、以下の要件が必要です。
1. 派遣元の団体または事業主が、
2. 日本国内において実施している事業について
3. 労災保険の保険関係が成立している

そのため、労働基準局長に対して派遣元の団体または事業主が、その事業から派遣する特別加入予定者をまとめて加入申請をする必要があります。

また、既に派遣元の団体または事業主において特別加入が承認されている場合には、変更届を提出することになります。

具体的な手続き等は厚生労働省の 「特別加入制度のしおり(海外派遣者用)」をご覧ください。

労災保険へ特別加入している場合に労災保険の適用があれば、保険給付される種類は通常と同様です。

労災保険給付の具体的内容こちら

不明な点などがあれば、事前に労働基準監督署に確認を行っておくのが良いでしょう。

使用者(事業主)に対する損害賠償請求

会社が事前に予期できたであろう事故に、適切な対策を行わなかったと判断される場合には、使用者(事業主)に対し損害賠償請求ができる可能性もあります。

4.裁判例

遺族補償給付不支給処分決定取消請求控訴事件

労働基準監督署長の不支給決定に対する取消訴訟を認めた事例

東京高等裁判所 平成28年4月27日

<事案の概要>

日本の運送会社Aで働いていた従業員Bが、中国の上海において急 性心筋梗塞により死亡したことについて、Bの妻(原告)が労災保険法に基づいて遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めたのに対して労働基準監督署長が不支給とする決定をしたため、当該決定の取り消しをもとめた事案


<争点>

  • 1.従業員Bが海外出張者か海外派遣者か
    原告は、Bが訴外会社の業務に上海で従事する海外出張者に該当し、労災保険法上の保険給付の対象となるべきと主張


<判断>

海外出張者か海外派遣者であるか否かは「単に労働の提供の場が海外にあるだけで、国内の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのか、それとも、海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのかという観点から、当該労働者の従事する労働の内容やこれについての指揮命令関係等の当該労働者の国外での勤務実態を踏まえ、どのような労働関係にあるかによって、総合的に判断されるべきものである」


<認定>

  • 所属・・・変更がなかったこと
  • 権限・・・業務の中心となる運送業務について、受注の可否の決定や値段や納期など契約内容の決定を行う権限も、顧客に発行する見積書の内容を決定する権限も、日本国内の訴外会社の担当者にあったこと
  • 内部処理・・・長期的な出張として内部処理していたこと
  • 賃金・・・会社から支払われていたこと
  • 労災保険料の納付・・・上海駐在時を通じて、国内事業場の事業に属する労働者である海外出張者として亡Bに係る労災保険料の納付を継続していたこと

等の事実を認定し、「単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、当該事業場の使用者の指揮命令に従い勤務する労働者である海外出張者に当たる」と判断しました。

弁護士のポイント

本判決は、海外出張と海外派遣の区別の判断について「当該労働者の従事する労働の内容やこれについての指揮命令関係等の当該労働者の国外での勤務実態を踏まえて」総合的に判断するとの基準を示しました。

海外出張か海外派遣か否かにより労災保険の適用に大きな違いが生じることから、従業員の海外出張については裁判例で挙げられた考慮要素も踏まえて内部的な処理を含めて慎重に判断する必要があるでしょう。

また、仮に海外派遣として従業員を派遣する場合には労災保険の適用がないことを踏まえて特別加入制度への加入をする等の対応をきちんととることが必要でしょう。

5.まずはご相談を

海外出張中の事故と言っても、どこまでが保険の適用範囲かはケースバイケースになります。

ご不明点がありましたら一度ご相談くださいませ。