職業性アレルギー疾患・化学物質過敏症と労災

1.職業性アレルギーとは

⑴ 職業性アレルギーについて

仕事上、大量にあるいは長期間特定の物質に触れることでアレルギー疾患を引き起こすことがあります。

たとえば、以下の症状が挙げられます。

  • 吸い込む:アレルギー性鼻炎・アレルギー性気管支喘息・アレルギー性の咽頭炎等
  • 皮膚に触れる:アレルギー性接触皮膚炎

重篤な場合は、アナフィラキシー症状を起こし、命にかかわります。

もともとアレルギーではなかったにも関わらず、仕事でアレルギー疾患を引き起こす物質にさらされることで発症したアレルギーを、「職業性アレルギー」といいます。

職業性アレルギーの原因となる物質は数々のものがあります。例えば、木材の粉や、動物の毛、うるし、鉱物油、テレビン油、抗生物質などが挙げられます。

⑵ 化学物質過敏症

特定の化学物質に大量にあるいは長期間さらされることで、その化学物質に対して過敏になり、極めて微量であっても頭痛などの過敏症状が生じることがあります。これを「化学物質過敏症」といいます。重い場合には、ペンのインクや、芳香剤に対しても頭痛などの症状が現れるようになることもあります。

化学物質過敏症は厳密にいえばアレルギーではないですが、特定の物質にさらされることで症状が起こる点ではアレルギーと類似しています。

本記事では、狭義のアレルギーも、化学物質過敏症も、職務上、特定の物質にさらされることで発症する症状につき、まとめて「職業性アレルギー」として紹介します。

2.職業性アレルギーと労災

仕事が原因で職業性アレルギーを発症した場合、労災給付の対象になる可能性があります。

労災保険給付の対象となる疾病は、労働基準法施行規則35条で引用されている、労働基準法施行規則別表第1の2に列挙されている疾病です。

そのなかに、「四 化学物質等による次に掲げる疾病」という項目があります。細かい項目を確認すると、

「3 すす、鉱物油、うるし、テレビン油、タール、セメント、アミン系の樹脂硬化剤等にさらされる業務による皮膚疾患」

「5 木材の粉じん、獣毛のじんあい等を飛散する場所における業務又は抗生物質等にさらされる業務によるアレルギー性の鼻炎、気管支喘息等の呼吸器疾患」

「9 1から8までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他化学物質等にさらされる業務に起因することの明らかな疾病」

等があります。

そのため、発症と業務との因果関係が認められれば、職業性アレルギーも労災給付の対象になり得ると言えます。

3.会社の責任

仕事が原因で職業性アレルギーを発症しても、慰謝料や仕事ができなくなったことによる逸失利益は労災給付からは支払われません。

会社に安全配慮義務違反があったと認められる場合は、損害賠償請求をすることで、これらの支払いを受けることができる可能性があります。

4.事例の紹介

⑴ 職業性アレルギー(化学物質過敏症)が労災として認められ、会社への損害賠償請求も認められたもの

高松地判令和5年3月24日

ア 事案の概要

各種環境測定・分析及び改善業務をする会社で、ガスや金属の分析をしていた女性が、分析に使用していた有機溶剤や酸により化学物質過敏症を発症したとして、労災申請をしました。また会社に対して、会社の安全配慮義務違反により化学物質過敏症を発症したとして、損害賠償請求をしました。

労働基準監督署は、業務が原因で女性が化学物質過敏症を発症したと認定し、療養補償給付(医療費)を支給しました。

会社は、女性が前職においても化学物質に触れる経験があり、また喫煙者であることから、会社の業務によって化学物質過敏症を発症したことを否定しました。また、会社には業務が原因で女性が化学物質過敏症を発症することについて予見できず、安全配慮義務違反はないと主張しました。

イ 裁判所の判断

裁判所は、会社の業務の内容、業務に従事してから1年近く後になって症状が現れたことから、女性が種々の有機溶剤や酸のばく露を受けたことによって、化学物質過敏症を発症したと認定しました。

また、症状が現れた翌月、女性は病院で診察を受け、アレルギーの原因として有機溶剤が疑わしいと言われており、そのことを会社に報告していたこと、その後も症状があらわれていることや、病院で受診していることが女性から会社に伝えられていたことから、会社は6か月に1回の有機溶剤等健康診断を実施してれば、遅くとも女性が診察を受けた半年後には、女性の体調不良の原因が有機溶剤であり、今後同じ業務を継続させれば症状が悪化することを予見できたと認定しました。

それにも関わらず、会社が有機溶剤による体調不良はないと決めつけ、女性を有機溶剤を使用する業務に従事させ続けたことから、安全配慮義務違反があったと認定しました。

⑵ 職業性アレルギー(化学物質過敏症)が労災として認められたが、会社への損害賠償請求が認められなかったもの

東京地判平成28年12月20日

ア 事案の概要

自動車の販売、整備を行う会社に勤める男性が、自動車整備場の清掃の際に用いる洗浄剤により接触皮膚炎、皮膚潰瘍、反射性交換神経性ジストロフィーを発症したとして、労災申請と会社に対する損害賠償請求を行いました。

労働基準監督署は業務に起因して症状を発症したと認め、障害補償年金併合3級を認定しました。

会社は、男性に現れた症状の原因は洗浄剤であることを否定し、損害賠償の義務はないと主張しました。

イ 裁判所の判断

裁判所は、男性が原因物質を特定するために受けたパッチテストにおいて、濃度に関係なく陽性であるかを判定していないことから、パッチテストの結果をもって皮膚疾患の原因が洗浄剤であると認定できないと判断しました。また、男性が休職している間にも症状の悪化があること、男性の洗浄剤の使用方法に異常がないこと(洗浄剤で掃除をしたら手を洗っていた)、男性以外の洗浄剤を扱う従業員に何らの皮膚疾患が現れていないこと、男性が急性扁桃炎に罹患しており、それによる交感神経反射の異常が皮膚疾患の原因となった相当程度の可能性が残ることから、男性の皮膚疾患の原因が洗浄液であると認定できず、皮膚潰瘍や反射性交換神経性ジストロフィーの原因であるとも認定できないと判断しました。

労働基準監督署が疾患と業務の因果関係を認めたのに対し、裁判所は、業務と症状との因果関係を否定しました。裁判所が異なる判断をした事例です。

⑶ アレルギーを発症し労災と認められるも、会社の責任が認められなかった例

※ 厳密にいえば、職業性アレルギーの事案ではありません

福岡地裁飯塚支判 平成元年12月20日・福岡高裁平成4年2月25日

ダニ被害の対策として、会社の社員寮でバルサンをたいたところ、寮勤務者(寮母さん)の顔面にアレルギー皮膚炎の症状が現れました。寮勤務者は労災を申請し、またバルサンをたいた入寮者7名・寮を所有する会社に対して損害賠償請求をしました。

アレルギー性皮膚炎は労災として認定されましたが、バルサンによって顔面にアレルギー性皮膚炎が生じることは予見できないと認定され、入寮者と会社の責任は認められませんでした。

寮勤務者は副腎皮質ホルモンを長期間連用していたため、有害性の乏しいバルサンの煙に触れただけでアレルギー症状が現れてしまいました。

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