上肢障害の場合

1.上肢障害とは

長時間、腕や手を使用すると、首から肩、腕、手、指にかけて炎症を起こしたり、関節や腱に異常をきたしたりすることがあります。

これらの炎症や異常は、「腱鞘炎」「手関節炎」「上腕骨外(内)上顆炎」「肘部管症候群」等の診断名がつけられますが、まとめて「上肢障害」と言われます。

2.上肢障害と労災

上肢障害が業務に起因するものであれば、労災の対象になり得ますが、手や腕は家事やスポーツなど、仕事以外の日常生活でも用いるものであり、加齢の影響も受けます。そのため、上肢障害が業務に起因するものと言えるかが問題になり得ます。

そのため、労働基準監督署によって上肢障害の労災として認定されるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること。
  2. 発症前に過重な業務に就労したこと。
  3. 過重な業務への就労と発症までの経過が医学上妥当なものと認められること。

それぞれの要件を詳しく見ていきます。

⑴「上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した」とは

上肢等に負担のかかる作業とは、①上肢の反復動作の多い作業、②上肢を上げた状態で行う作業、③頸部、肩の動きが少なく姿勢が拘束される作業、④上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業のいずれかに当たる作業か、これらに類似した作業を指します。

「相当期間従事した」とは、原則として6か月程度以上従事した場合をいいます。

⑵「過重な業務」とは

過重な業務とは、上肢等に負担のかかる作業を主とする業務において、発症直前3か月間に行われた、原則として、以下に該当するものを指します。

  • 同種の労働者よりも10%以上業務量が多い日が3か月程度続いた
    ※同種の労働者とは、同様の作業に従事する同性で年齢が同程度の労働者を指します。
  • 1か月の平均では業務量が通常の範囲内であっても、1日の業務量が通常より20%以上多い日が、1か月に10日程度あり、それが3か月程度続いた
  • 1日の平均では業務量が通常の範囲内であっても、1日の労働時間の3分の1程度の時間に行う業務量が通常より20%以上多い日が、1か月に10日程度あり、それが3か月程度続いた

なお、これらの業務量に満たなくても、長時間作業・連続作業、過大な重量負荷・力の発揮、過度の緊張、他律的かつ過度な作業ペース、不適切な作業環境といった要因が顕著に認められる場合は、「過重な業務」に就労したといえるか否かの判断において考慮されます。

3.裁判例の紹介

業務に起因して上肢障害が生じた場合、安全配慮義務違反があったとして、会社に対して損害賠償請求をすることができる可能性があります。

会社への損害賠償請求が認められた裁判例と、認められなかった裁判例をご紹介します。

⑴会社への損害賠償請求が認められたもの

高松高判令和2年2月26日・高知地判平成31年3月26日

ア 事案の紹介

農協に勤め、奴ねぎの検査業務・梱包作業に携わっていた男性・女性が、肩や肘等に後遺症(男性は左肘関節症及び左肘部管症候群(労基署により併合14級認定)、女性は両側上腕骨外上顆炎、右手関節炎、頸肩腕症候群、両肘関節の機能障害(労基署により併合10級認定))を発症したとして、安全配慮義務違反による債務不履行又は不法行為に基づき、農協に対して損害賠償請求をしました。

イ 裁判所の判断

裁判所は、男性らが携わってきた業務量、動作の内容、担当者が男性ら2名しかいなかったこと、作業環境がかなりの低温だったこと、繁忙期は就業時間が長時間にわたったこと等を認定したうえで、業務内容が上記の肩や肘等の後遺症を生じさせるほど過重な業務であったと認定し、後遺症発生と業務との相当因果関係を認めました。そして、男性らの負担を軽減させる措置をとらなかったとして、農協による安全配慮義務違反を認定しました。

なお、本訴訟では上記2人と別業務に携わっていた男性も同様の請求をしていますが、こちらの請求は棄却されています。

⑵会社への損害賠償請求が認められなかったもの

静岡地裁浜松支部判平成3年8月26日

ア 事案の紹介

日本専売公社(当時)に勤めていた女性が、たばこの包装作業に従事していたところ、頸肩腕症候群を発症し休職しました。その後、復職と休職を繰り返しましたが、休職期間が満了してもなお休職の事由である疾病が治療しないとして、日本専売公社は女性を失職させました。

女性は、雇用契約上の地位確認(失職を争うということです)と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求のために提訴しました。

イ 裁判所の判断

裁判所は、業務の内容や作業環境を検討し、業務が頸肩腕症候群を発症させるほどの過重な負担となり得るとは言えないとし、業務と頸肩腕症候群の発症との間に相当因果関係は認められないと判断しました。その結果、雇用契約上の地位確認も、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求も棄却されました。

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