大きな音に長時間さらされると難聴になることがあります。このような難聴を「騒音性難聴」と言います。このタイプの難聴は、金属を切断する製造業の工場、電動ドライバー等を使う工事現場など、大きい音にさらされる職業の方に多いことから、「職業性難聴」とも言われます。
仕事の影響で職業性難聴になった場合は、労災給付の対象になる可能性があります。
労災保険給付の対象となる疾病は、労働基準法施行規則35条で引用されている、労働基準法施行規則別表第1の2に列挙されている疾病です。
その中に、「11 著しい騒音を発する場所における業務による難聴等の耳の疾患」があります。
そのため、大きな音にさらされる職場で勤務していたため難聴になった場合、労災の給付の対象になる可能性があると言えるのです。
業務上、あるいは通勤中の疾病について、症状が残っているのにこれ以上治療効果が見込めない状態になり、障害等級に該当する場合は、業務上災害の場合は障害補償給付、通勤上災害の場合は障害給付の対象になります。
障害(補償)給付の対象になる場合は、労働福祉事業から障害特別支給金と、障害特別年金か障害特別一時金が支払われます。
障害(補償)給付は、障害の内容によって、受給するのが年金か一時金か異なります。
障害(補償)給付・障害特別支給金・障害特別年金・障害特別一時金について詳しくは、こちらのページ(https://roudousaigai.net/rousaihoken/disabling_benefit/)をご覧ください。
職業性難聴になり、障害等級第1級から第7級に該当する場合は、障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金の支給対象になります。
| 身体障害 | 障害等級 |
|---|---|
| 両耳の聴力を全く失ったもの (両耳の平均純音聴力レベルが90㏈以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが80㏈以上であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のもの) |
第4級 |
| 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの (両耳の平均純音聴力レベルが80㏈以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上80㏈未満であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のもの) |
第6級 |
| 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの (1耳の平均純音聴力レベルが90㏈以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが70㏈以上のもの) |
第6級 |
| 両耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの (両耳の平均純音聴力レベルが70㏈以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のもの) |
第7級 |
| 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1
m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの (1耳の平均純音聴力レベルが90㏈以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが60㏈以上のもの) |
第7級 |
職業性難聴になり、障害等級第8級から第14級に該当する場合は、障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金の支給対象になります。
| 身体障害 | 障害等級 |
|---|---|
| 両耳の聴力が1
m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの (両耳の平均純音聴力レベルが60㏈以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のもの) |
第9級 |
| 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1
m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの (1耳の平均純音聴力レベルが80㏈以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上のもの) |
第9級 |
| 1耳の聴力を全く失ったもの (1耳の平均純音聴力レベルが90㏈以上のもの) |
第9級 |
| 両耳の聴力が1
m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの (両耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが40㏈以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のもの) |
第10級 |
| 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの (1耳の平均純音聴力レベルが80㏈以上90㏈未満のもの) |
第10級 |
| 両耳の聴力が1 m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの (両耳の平均純音聴力レベルが40㏈以上のもの) |
第11級 |
| 1耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの (1耳の平均純音聴力レベルが70㏈以上80㏈未満のもの又は1耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のもの) |
第11級 |
| 1耳の聴力が1 m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの (1耳の平均純音聴力レベルが40㏈以上70㏈未満のもの) |
第14級 |
職業性難聴(騒音性難聴)は、一度発症したら治すのは難しい一方で、騒音の影響をできる限り減らすことで予防することができます。発症してしまっても、それ以上騒音にさらされることを防ぐことで、難聴の進行を防ぐことができます。
そのため、厚生労働省は、平成4年に「騒音障害防止のためのガイドライン」を作成し(令和5年に改訂)、公表しています。ガイドラインにおいては、騒音が生じる作業場の事業者に対し、騒音レベルの測定や、イヤーマフなどの聴覚保護具の使用、作業時間の管理、健康診断など、労働者が難聴になることを防ぐための対策を定めています。
このガイドラインの対象となる作業場であるにも関わらず、ガイドラインに定められた対策を何らとっていないとなると、その作業場を運営する会社には安全配慮義務違反がある、ということになりかねません。
仕事が原因で職業性難聴を発症したとしても、慰謝料や難聴により仕事ができなくなったことによる逸失利益は労災からは給付されません。
会社に安全配慮義務違反があった場合は、損害賠償請求をすることで、慰謝料や逸失利益の支払いをうけることができる可能性があります。
鉱業所で鉄鉱石及び銅鉱石の採掘に従事していた複数の従業員及び従業員の遺族が、同時に会社に損害賠償請求をした事案です。
昭和10年代~昭和50年代にかけて、従業員らが鉱業所で勤務していたところ、騒音にさらされ、職業性難聴を発症しました。
従業員らと遺族は、会社に安全配慮義務違反があったとして、損害賠償を請求しました。
裁判所は、①昭和26年に労働省が造船所8か所の実態調査を行い、労働者の経験年数が長くなるにつれて聴力損失を示すものが増加すること、労働者の経験年数が長くなるにつれて聴力が低下すること等の結果を報告していること、②昭和28年の労働省通達が「騒音性難聴の取扱いについて」と題して労災に該当する騒音性難聴の基準を示していること(昭和61年に改正)、③昭和47年に定められた労働安全衛生法規則が、「事業者は強烈な騒音を発する屋内作業場においては、その伝ぱを防ぐため、隔壁を設ける等必要な措置を講じなければならない。」としていること、④昭和63年度発行・労働省労働基準局編「労働衛生のしおり」が騒音性難聴の具体的な予防対策を定めていることを認定しました。
そのうえで、「被告(筆者注:会社)は、原告ら(筆者注:従業員ら)に対し、同騒音ばく露による難聴への罹患を防止するための対策を、可能な限り最善の手段方法をもって実施する義務を負っていたというべきであり、被告における防止措置の実施状況を全体として見た場合に、総合的な被告の原告らに対する難聴対策として、当該時代における技術水準、医学的知見等に照らし、十分なものであったと認められる場合には、被告の原告らに対する難聴に関する安全配慮義務は尽くされていたものと評価すべきであるが、同予防対策が十分なものであったと認められない場合には、被告の同義務は尽くされていないものと評価すべきである。」との判断基準を示しました。
そして、鉱業所における耳栓の支給が十分ではなかったこと、難聴についての健康診断・騒音測定が定期的に行われていたとはいえないことから、対策が不十分であったと認定し、「騒音性難聴防止のための安全配慮義務を尽くしたと評価することはできないというべき」と判断しました。
裁判所が安全配慮義務違反の有無を判断する際には、義務違反があったとされる当時の知見が基準になります。そのために、判決文中において、平成4年に作成された「騒音障害防止のためのガイドライン」が参照されていないものと考えられます。
現在、職業性難聴が生じて損害賠償請求をする場合は、「騒音障害防止のためのガイドライン」が参照される可能性があると考えます。